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不安
担当の医師は早朝から診察に来る・・・・・・一体何時から仕事しているのだろう・・・・・入院患者の診察を終えて外来の患者を診察する・・・・・・激務だろうと思う。
自分の仕事だって時間に制限のない仕事だという覚悟はできていた・・・・・・だが・・・・・・銃で撃たれるとは思ってもいなかった。
刑事であっても銃の所持には許可が要る、まして発砲となるとその責任は重い・・・・・・銃を発砲する機会など通常は無いに等しい。
銃撃戦など海外での出来事だと思っていた。
撃たれた瞬間・・・・・焼けるように熱かった事だけは覚えている。
腹に置いた手が生温かな血に赤く濡れていた・・・・・・赤い血がドクドクと流れ・・・どろどろになった手で腹を押さえている自分・・・・・・・そして意識を失った。
手術してから2週間たって一般病棟へ移動した。
トイレ付きの個室だった・・・・・・今までのように夜間の看護師の動きを気にすることも明るすぎることもなかった。
ぐっすりと眠れるはずだった・・・・・・・
今夜篠宮海飛は当直だった・・・・・・気になる患者の部屋へ行ってみた。
深夜この時間は寝ているはず・・・・・・足音を忍ばせて部屋へ入る・・・・・微かに聞こえてくるのは・・・・声とも呻き声とも違う・・・・・
部屋の奥のベッドに近づくと・・・・
「だれだ」
「担当医の篠宮です・・・・・・眠れませんか?」
「・・・・・・いえ・・・・・・・」
「痛みますか?」
「・・・・・・いいえ・・・・・・・あの・・・・・」
「どうしました?何かあったらおっしゃってください・・・・」
「・・・・・・いえ・・・・・大丈夫です・・・・・・」
「しばらく側にいましょうか?」
「エッ・・・・・・」
「あんなことがあった後個室で一人は心細いでしょうから、眠るまで側にいます」
裕翔は個室になって急に怖くなった・・・・・・あの銃撃が頭から離れない・・・・・・
手に残る血の感触・・・・・
静まり返った病室でたった一人、永遠に続く暗闇に囚われたような恐怖・・・
満足に動けない心細さと不安で押しつぶされそうだった・・・・・目を閉じるのが怖かった。
気づけば泣いていた・・・・・誰か側にいてほしいと始めて思った。
「眠るまで側にいます」その言葉がどれほど嬉しかったか・・・・
自分は刑事なのに・・・・・恐怖に捕り付かれてしまったような心細さで刑事としての自信を失いかけていた。
篠宮海飛の言葉は胸に温かさをくれた。
その言葉が医師としての通常の言葉だろうと構わない・・・・・側にいてほしい・・・・・そう思った。
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