回復

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回復

白坂裕翔には家族と呼べる存在がいなかった・・・・・・5歳の時突然一人になってから信じられるのも頼るのも自分だった・・・・・・ あの日・・・・・・家族3人で出かけた先で爆発事故があった・・・・・ビル爆破・・・・・・ ショッピングセンターで買い物客や従業員その他多くの犠牲者が出た・・・。 たまたまトイレに行っていた自分だけが爆破の被害を逃れた・・・・・・だが・・・・・父も母も犠牲になった。 トイレに行かなければ自分も一緒に死ねたのに・・・・・・・一人残された絶望感でしばらく言葉を喋れなくなった。 無口で愛想のない子供なんて邪魔ものでしかない・・・・・・国からの保証金ほしさの親戚が引き取ってくれたがずっと一人だった・・・・・・ 高校を卒業してからは一人暮らしを始めて学費だけは保証金で出してもらったが残りの金は放棄した。 生活費はバイトと奨学金で賄った・・・・・・大学を出て警察官になったのも世の中の悪を・・・・・・・などと大層な志があったわけではなく悪い奴のせいで犠牲になる弱い存在を少しでも減らしたかった。 毎晩側にいてくれる篠宮海飛の優しさが嬉しかった・・・・・・寝るときに手を握っていてくれるのも安心できた。 さりげなく・・・・・それでいて暖かい気持ちが伝わってくる・・・・・・誰かに優しくされるのも寝るとき手を握ってもらうのもあの日以来初めてだった・・・・・・。 医者はそこまで患者を気にかけるものなのだと思っていた・・・・・・だが篠宮海飛がそこまでするのは白坂裕翔にだけだった・・・・・・白坂裕翔にだけ向けられた優しさと思いやりだった・・・・・・ 睡眠を充分にとった裕翔の朝は爽快だった・・・・・食事も今では普通食になってリハビリも開始された。 寝た切りの期間が長くなると筋肉の衰えが顕著になる・・・・・・ベッドでのリハビリから始まって少しづつ歩いたりトレーニング機器を使ってのリハビリも始まった。 時間があると病棟内を点滴をお供に歩いたり・・・・・・看護師に話しかけたり・・・・・・なるべく気分が滅入ることのないように心がけた。 篠宮海飛は外来の診察が終わると病棟へきて担当の患者を見て回る・・・・・・昼間見る白坂裕翔は元気そうで病棟を歩く彼は看護師や職員たちに人気だった。 明るく話す彼の笑顔を見るのが今の篠宮海飛の癒しだった・・・・・・ 彼の回復は早かった・・・・・・彼が退院したら・・・・・・元気になるのは嬉い・・・・・・だが退院したら逢えなくなる。 患者の回復を願う医師の気持ちと個人的な気持ちは相反していた。
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