友釣り解禁

1/5
前へ
/5ページ
次へ
     森のように木々が立ち並ぶ中を、奥へ奥へと入っていく。半時間も歩けば視界が開けて、美しい川が流れていた。  川幅は十メートル程度。手前には河原が広がっているが、反対側は崖になっているので、こちら側からしか行かれない釣り場だ。  今日の私の目的地であり、私の鮎釣りデビューとなる場所だった。  いつもはルアーやフライでブラックバスやブルーギルを釣ったり、エサ釣りでコイやフナだったり。  そんな私が鮎釣りにチャレンジしようと考えたのは、ほんの気紛れだった。釣具店に貼ってあった「鮎釣り解禁」の告知を見て、 「たまには美味しい川魚を釣るのもいいかな」  と思ったのだ。  もちろん竿も仕掛けも全く違うので、すぐさま鮎釣りの道具一式を衝動買い。帰宅後、初心者でも釣れそうな場所をインターネットで調べて……。  天気の良い週末の今日、その川を訪れたのだった。  渓流用のシューズ越しでも川の冷たさが感じられて、なんとも心地よかった。  わくわくしながら、水の中に足を進める。いつも新しい釣り場へ行くたびに胸が高鳴るが、なにしろ今日は釣り場だけでなく、釣りそのものが新しい。興奮もひとしおだった。  ひとくちに鮎釣りといっても色々な釣り方がある。その中で真っ先に思いつくのは、やはり友釣りだろう。  これから釣ろうとする野鮎の縄張りで、針をつけたオトリ鮎を泳がせる。すると野鮎は、自分以外の鮎を(おのれ)の縄張りから追い出すために、オトリ鮎にアタック。その際、針に掛かってしまう……という釣り方だ。  本来は生きたオトリ鮎を専門店から購入するらしいが、最近ではルアーを用いた友釣りも行われているという。それならばルアーフィッシングの一種であり、いつもの釣り方にも近くてハードルが低く感じられたので、今日の私は鮎釣り用ルアーを用意してきていた。    
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加