友釣り解禁

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    「ここって、ずいぶんと暗いのですね……」  そんな言葉が、私の口から飛び出す。  最初に河原へ出るために通った辺りとは異なり、男に案内された森の小道は、とても鬱蒼としていた。同じ森に入ったとは思えないほどだ。 「まあ、この辺りは木々の間隔も狭いし、葉も生い茂って重なり合っている。ちょうど日光が遮られて、昼間でも暗くなってしまうのですな。歩きにくいですか?」 「いや、大丈夫です。この程度なら、普通に歩けますよ」  相手を安心させるために、そう言っておく。しかし実際には、半分やせ我慢だった。  振出竿なので使用時よりは短くなっているものの、森の中で携帯するにはまだ長すぎる。渓流用シューズも、こういう場所を歩くには向いていなかった。  それでも、せっかく好ポイントへ案内してもらえるのだから、文句を言うつもりはなかったのだ。  しばらく歩くうちに、本当に周りは暗くなっていた。まるで夜みたいだ。  もちろん、完全な暗闇ではない。周囲の景色は(うっす)らと見えているが……。 「あれ? どこですか?」  ふと気づけば、隣を歩いていたはずの男の姿がなくなっていた。  暗いので見えない、というわけではない。突然どこかへ行ってしまったとか、煙のように消えてしまったという感じだった。 「えっ……?」  いったい何が起こっているのか。  慌ててキョロキョロと見回すと、周りの状況もすっかり変わっていた。いつのまにか森の中ではなく、洞窟のような場所に立ち入っていたのだ。  地面から天井までは二メートルくらい。道幅もそれと同じか、それより少し狭い程度だった。 「……」  呆然として、言葉を失ってしまう。  そんな私の頭の上に、水滴が落ちてきた。  いや、正確には『水滴』ではなく、明らかに水とは異なる液体だった。熱湯みたいな高温で、強酸を浴びたみたいな痛みも感じる。  しかも、最初は『頭の上に』だったのに、それが腕にも体にもポタポタと落ちてくるのだ。 「まさか、この洞窟って……」  足元もブヨブヨした状態で、土や岩の地面とは思えなかった。むしろ生物の感触だ。  どうやら私は、怪物の体内に放り込まれていたらしい。    
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