逆走

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逆走

「まさか、片側2車線の高速道路で逆走車が隣のレーンに突っ込んで来るとは…」 昨日深夜のTVニュースでそんなコメントを聞いた気がする。 「まさか、そんなことは自分にあるはずがない」 俺は父親の危篤の知らせを受け、真夜中の高速道路を飛ばす。 人生の4分の1があっという間に過ぎたような気がした。 窓の外の景色は真っ暗なのに、色付いて見える。 焦る気と引き換えに、俺の目は冴える。 「あれは、なんだ」 遙か前方の追い越しレーンからヘッドライトが近づいてくる。 「あっっーー」 物凄い勢いで逆走車とすれ違った。 俺の気は確かだった。真夜中だけれど目は冴えていた。病院へ行かなければならないという目的がハッキリしていたから。 「すれ違った車を運転していたのは、俺の父の横顔だった。間違いない」 俺の寿命の4分の1と引き換えに、俺の父親は遠い所へ逆走して行ってしまった。
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