9.新しい季節

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彼の家のベッドで、若王子の身体の上に跨って、そのまま見下ろしてみる。意地悪く微笑まれて胸がキュンとした。いつだってそうだ、若王子は伊万里の心を散らかしていく。散らかすだけ散らかして、元の場所に戻してはくれない。 「な、なんか、ヘン……かも」 「俺たちは発情期になればいつだっておかしい生き物だろ」 「んー…そうだけど」 本当は、発情期は心細いから、若王子が来てくれて嬉しかったのかも知れない。 「伊万里」 急に名前を呼ばれた。 「ひゃっ⁈」 「お前も奏多って呼べよ」 「奏多、先輩」 奏多、いい名前だ。 音楽が好きな彼らしい名前だと思う。 「えへへ、奏多ってすごくいい名前」 「……い、伊万里だって、すごく可愛い」 交代でシャワーを浴びて、ベッドルームに集合する。こうなると、とうとうするのだ、とう緊張感が漂ってくる。 「具合が悪くなったら言えよ」 「……はい」 心配してくれたのが嬉しくて、若王子に抱き着く。ごくり、と若王子の喉が鳴った。欲望の気配がする。 この、若王子の目。ちょっとだけヒートを起こしている。初体験が痛くても優しくなくても、彼に求められたら伊万里は嬉しい。 「あの、発情期になるの待っていたって……」 「えっ?」 「それって、ずっと今日まで、先輩は我慢していたってことですよね?」 「もう我慢はしない」 そう言って微笑んだ若王子の指が、伊万里の悦いところを探る。伊万里は黙り込んだ。その慎重な動きに、若王子の本気を感じる。 「……ふぁ……っ、せんぱ、い、そこやだ……」 時々、伊万里の固く結んだ唇が緩んでしまう部分がある。それほど深くないところ。何度もそこを擦られると、思わず喘いでしまう。 「本当にいやか?」 静まっていた伊万里の欲望にも火が付いて、少しずつ首を擡げてきた。痛くはない、そのことに安堵していると指が増やされて二本から三本になった。指を引き抜かれて、真っ赤になった耳を甘噛みされる。 「いやじゃないです……っ、ひゃんっ」 「俺、本当はずっとこうしたかったんだ」 彼に溺れるには何が必要なのだろう。 小さな穴がこじ開けられているこの瞬間にも、伊万里は懸命に考えを巡らせていた。もう充分に濡れている。いざ挿入されて、若王子をがっかりさせてしまったらどうしよう? 突然沸いたそんな思考に、冷や汗が出る。苦しい、と思う手前で若王子の指の動きが止まった。 「お前のこと好きだ」
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