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「……だった?」
若王子にしては歯切れの悪い言い方だった。
「アメリカは遠い。しかも、高卒じゃ向こうでも分が悪いだろ。大学には行くことにしたけど……留学はしようと思ってる。アメリカの職人がホームステイを受け付けてるんだ」
「いいじゃないですか! 本場でお勉強できるんでしょ?」
「……ッ、お前と、簡単には会えなくなるだろ! だから、俺は……」
そんな簡単な理由で迷っているのか。
「俺がアメリカに逢いに行きますよ」
「英語の成績赤点だったお前が?」
「それは余計ですってば~」
素直じゃない恋人は、ぐらぐら揺れている。思ったよりもうんと往生際の悪い人で、恋愛と他のものを両立させるのは苦手そうだ。どれか一つ、一直線。それが若王子らしい。
「どこにいても、俺は奏多先輩のオメガですよ」
「ふん。可愛いことを言ってくれるな」
これを恋だというのなら、時間の許す限り若王子の薫りを浴びたい。
ずっと傍にいて欲しい、一緒に好きな音楽を奏でていて欲しい。彼のものになりたい。だから伊万里はたくさん練習する。若王子の体内に存在する楽しいだとか美しいだとかいう感性の塊を、共有するために。
同じ景色を見て、彼の奏でる音色が大好きだと実感するために。
「奏多先輩。俺、先輩のことだーいすき」
俺も、そう小さく囁いた若王子は、お返しに乱暴なキスをくれた。
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