10.悲しい記憶

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10.悲しい記憶

奏多は中学校が大嫌いだった。 低俗な男子が教室で騒ぎ立て、高慢な女子たちはアルファである奏多に色目を使ってきて最低だった。アルファの自分も、ベータの両親も群がるオメガたちも、どれも気に食わない。みんな嫌いだ。 大学生になった今なら分かる。 結局のところ、ああいうのは全部、思春期だったのだと思う。 あの頃、欲望の渦巻く私立の中学校に押し込められて、自分こそが一番不幸だと思い込み、アルファであることを呪いながら生きていた。みんな若王子グループの社長と、伊勢香穂子の息子である奏多のことしか見ていない。誰も奏多自身を知らない。 優秀なアルファとして生まれたことが幸福だというのなら、生まれた瞬間が幸運の最高潮で、あとはその運を使い切るだけ。 奏多のそういう悪い妄想は尽きることなく、三年間も続いた。
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