11.伊万里の巣作り

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11.伊万里の巣作り

高校を卒業しても、伊万里は新しい大学でも吹奏楽部に入りサックスを吹いている。奏多の結成したOB会にも入りアルバイトも始めて、忙しいながらも楽しそうだ。一緒に暮らしていると言っても、すれ違うことの方が多い。 伊万里は三人兄弟の末っ子ということもあって、すぐに拗ねるしワガママだった。 「こらっ、伊万里! またお前巣作りしてたのか! こんなに散らかして——…」 「だ、だって奏多先輩、全然帰ってこないんだもん」 部屋の中に充満するお菓子みたいな匂いは、伊万里のフェロモンだ。その甘さに酔いそうになりながら布団を捲ってやると、不満そうな顔が出てきた。 「お前、そのシャツが何万するか、分かっているのか?」 「知らない、じゃあこのジャケットにしますっ」 「なっ、お前というやつは~っ」 ぼんやりと伊万里を眺めている間に、着ていたジャケットからネクタイまでみんな掠め取られた。大切そうに抱えられ、巣穴に消えていく。 オメガは淋しくて巣作りするのだと知り、奏多は何も言えなくなってしまった。伊万里ときたら、奏多の衣装ケースを全部ひっくり返す勢いで巣作りするのだ。困り果てて色んなものを与えてみるも、結局シャツだとか肌着が選ばれる。 あまり叱ると帰ってきた奏多のシャツを引っぺがしてまで巣に籠もろうとするから、叱らなくなった。
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