11.伊万里の巣作り

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「伊万里、愛してる。俺にはお前だけだ」 ずっと、愛には、条件があるものだと思っていた。 誰でも得られるものなんじゃなくて、何かを満たしていないから自分はこんなに空っぽなのだと思っていた。実際は、そんなことはない。伊万里がなんの迷いもなく分け与えてくれた。 「ぜったいにお前のこと離さない」 「せんぱい、好き、だからもっとちょうだい——…」 どろどろに溶けてしまいそうなキスと高揚、噛んだあとも続くセックスは幸福だった。噛みたいというアルファ最大の欲求が満たされて、そのあとは天井なく続いていく。伊万里が好きだ。その伊万里と、制限なく抱き合っている。 「ああ、いっぱいやるよ。お前が望むなら、なんでも」 運命というものがあるのなら、それは伊万里のことなんじゃないだろうかと、奏多は迸る欲情の中思うのだった。 「……で、なんでお前は怒ってるんだよ。俺たち、番になったんだぞ!」 ようやく番になったというのに、事後、ベッドから出てきてくれた伊万里は何故か頬を膨らませている。 「だって! これって、俺の好物じゃなくて先輩の好物でしょ」 伊万里はパン屋のメロンパンを頬張りながら、ブツブツ文句を言っている。可愛い。 「俺、知ってるんですから! 先輩、いっつも部室でお菓子食べてた。俺たち後輩にはお菓子禁止だってあんなに言ってたのに!」 「そんなのもう時効だろ、時効!」 どんどん伸びていく音色と部活内の活気、放課後の練習、帰り道のラーメン。 高校三年生の頃得た者は、どれもが平和だった。何一つ特別なものはなかったけれど、高校を卒業した今、その一つ一つが宝石のように光る。伊万里はどんなことをしていても笑顔で、可愛くて、眺めているだけで幸福になれるそういう男の子だった。 伊万里と番になってから、奏多は自分の夢を追うことを考えるようになっていた。トランペット職人になるために渡米し、留学という形で修行することになっていたのだが——…。 結局、そのアメリカでの修行はたった八か月年で終止符が打たれた。 職人の仕事は好きだったし、トランペットが嫌になった訳ではない。最愛の伊万里が倒れた知らせを受け一時帰国を決めた。 伊万里が入院したのは発情期が原因だった。
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