1.いじわるな先輩

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1.いじわるな先輩

よく見た目と中身がぜんぜん違うねと言われる。 そうだろうなと自分でも思う。小柄で白磁のような白い肌のオメガ、初めて伊万里(いまり)と出逢った人はみんなドラマに出てくるような華憐なオメガのイメージで見てくるのだ。 「佐伯(さえき)くんて車で送り迎えされてそう。お人形さんみたい」 高校に入学して早々、クラスの女子にそう言われた時はさすがに吹き出した。 「まさか。オメガに夢見すぎだよ!」 ベータ性の数に対してオメガ性の数は少ない。一学年に一人いるくらいの割合なので、とにかくクラスにいたら珍重される。うなじを守るネックガードをしていてはオメガだと周囲に吹聴しているようなものだったが、まだ発情期の経験のない伊万里だからこそ必要だからと、両親から付けるよう言われている。 伊万里は見た目こそ華奢だが立派な男子高校生で、活発で好奇心旺盛だ。 可憐な見た目の小柄なオメガ、このイメージはなかなか払拭できない。背も伸びないし母親譲りの美貌なんて、クラスの女子の玩具にされるだけで嫌だった。 「あーあ。俺も男らしく生まれたかったなぁ」 嘆いてみても、生まれ持った容姿や体格は変えられない。 だから伊万里は、せめて高校の部活動くらいカッコいいことをしてやろうと決めていたのだ。 そんな伊万里と音楽との出逢いは、突然だった。 楽器なんて持ったこともないし、周囲に弾く人がいたわけでもない。それなのに急に興味が沸いたのは、勧誘のために奏でられている演奏があまりにカッコよかったからだ。 四月、春爛漫の校舎は活気に溢れている。 不意にトランペットの演奏が聴こえてきた。小粋な演奏。聞いたことのある曲だった……曲名は、確か聖者の行進だったか。他にも曲名こそ知らないが誰でも一度は耳にはしたことがあるような楽曲が続き、用意された座席はあっという間に満席になった。 (……か、カッコいい!) 春の盛りの校庭はまだ少し肌寒い。あちこちで部活動の勧誘がされていて、新入生の伊万里もあらゆる部活動の勧誘を受けた。 美術部に新聞部に演劇部、どれも文化部のものだった。きっと自分の見た目が運動部っぽくないんだなということは分かっているので、いくつかの文化部に体験入部してみたがピンとくるものはない。それが今日、吹奏楽部の演奏に一気に釘付けにされてしまったのだ。
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