1.いじわるな先輩

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伊万里が座ったのはまさかの奏者の目の前、最前列。伊万里の上げた歓声に奏者の上級生がニヒルに微笑む。 「カッコいい? 俺の演奏が?」 「はい! 先輩の演奏、とっても良かったです!」 伊万里は目の前の上級生をじっと観察した。 彼はアルファだ、オメガである伊万里には分かってしまう。 きっと、ベータの人だって一目でわかるだろう……それくらいこの上級生の風格は浮世離れしていた。ハッキリとした目鼻立ちの美貌に長身。遠目から見てもかなり目立つ。 「あまりジロジロ見るな。そこまで興味あるなら、お前も吹いてみればいい」 華のある美形だ。伊万里は圧倒されてしまう。モデルか俳優か、とにかくこの人は凡人ではないなと感じさせる。そんなオーラのあるイケメンがトランペットを弾くというのは、圧巻だった。実際、演奏の方も素晴らしかったのだから、文句の付けようがない。 「俺、トランペットの演奏なんて初めて聴きました。こんなにウキウキするものなんですね」 素人丸出しの発言に、傍に控えていた部長らしき上級生が微笑む。 「君、体験入部してみない? 楽器に興味ある?」 「興味はありますけど、俺、楽器を持ったこともなくて……」 「大丈夫! うち、初心者大歓迎だから!」 そう言われ、引き摺られるようにして音楽室に案内される。あれだけ演奏中は人だかりが出来ていたのに、全然楽器体験の方には人がいない。どうしてだろう。どうやらこのアルファの先輩がみんな怖いらしい。実際、伊万里もこの上級生と接してみて分かった。 「楽器の持ち方が違う、こうだ、こう」 「は、はい……」 フルート、オーボエ、ホルン。これら全て伊万里には音が出せず、挫折を味わった。 「音が出てないじゃないか。センスがゼロだな、はい次!」 「うう……」 「まあ、フルートもホルンも難しいからな。素人では音を出すのが難しい。どうする、まだ試すか?」 このアルファの先輩が対応すると、誰しもが怯えて教室から出ていく。 とにかく怖い。正直、伊万里だって楽器体験を始めたことを後悔し始めている。いったいこの人はなんなのだろう。散々伊万里のことをコキ下ろしただけでなく、挙句の果てには部長と喧嘩を始めていた。 「若王子、お前のせいで全然新入生が寄り付かないじゃないか! せっかくそのイケメン面を客寄せパンダにしようとしていたのに……」
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