257人が本棚に入れています
本棚に追加
/117ページ
伊万里が座ったのはまさかの奏者の目の前、最前列。伊万里の上げた歓声に奏者の上級生がニヒルに微笑む。
「カッコいい? 俺の演奏が?」
「はい! 先輩の演奏、とっても良かったです!」
伊万里は目の前の上級生をじっと観察した。
彼はアルファだ、オメガである伊万里には分かってしまう。
きっと、ベータの人だって一目でわかるだろう……それくらいこの上級生の風格は浮世離れしていた。ハッキリとした目鼻立ちの美貌に長身。遠目から見てもかなり目立つ。
「あまりジロジロ見るな。そこまで興味あるなら、お前も吹いてみればいい」
華のある美形だ。伊万里は圧倒されてしまう。モデルか俳優か、とにかくこの人は凡人ではないなと感じさせる。そんなオーラのあるイケメンがトランペットを弾くというのは、圧巻だった。実際、演奏の方も素晴らしかったのだから、文句の付けようがない。
「俺、トランペットの演奏なんて初めて聴きました。こんなにウキウキするものなんですね」
素人丸出しの発言に、傍に控えていた部長らしき上級生が微笑む。
「君、体験入部してみない? 楽器に興味ある?」
「興味はありますけど、俺、楽器を持ったこともなくて……」
「大丈夫! うち、初心者大歓迎だから!」
そう言われ、引き摺られるようにして音楽室に案内される。あれだけ演奏中は人だかりが出来ていたのに、全然楽器体験の方には人がいない。どうしてだろう。どうやらこのアルファの先輩がみんな怖いらしい。実際、伊万里もこの上級生と接してみて分かった。
「楽器の持ち方が違う、こうだ、こう」
「は、はい……」
フルート、オーボエ、ホルン。これら全て伊万里には音が出せず、挫折を味わった。
「音が出てないじゃないか。センスがゼロだな、はい次!」
「うう……」
「まあ、フルートもホルンも難しいからな。素人では音を出すのが難しい。どうする、まだ試すか?」
このアルファの先輩が対応すると、誰しもが怯えて教室から出ていく。
とにかく怖い。正直、伊万里だって楽器体験を始めたことを後悔し始めている。いったいこの人はなんなのだろう。散々伊万里のことをコキ下ろしただけでなく、挙句の果てには部長と喧嘩を始めていた。
「若王子、お前のせいで全然新入生が寄り付かないじゃないか! せっかくそのイケメン面を客寄せパンダにしようとしていたのに……」
最初のコメントを投稿しよう!