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発情期のとき、確かに都合よく若王子に解決して貰っていたのだから反論はできない。でも、彼は続きを言おうと伊万里のことを睨みつけている。
「……ストップ!」
もうたくさん、という気持ちで伊万里は彼を制止させた。
「気持ちは分かりました。でも、俺は別に先輩のこと誘惑したつもりはありません。そりゃあそれなりに交流はしてる、けど……それを突然来てどうこう言うなんてひどい。初対面なのに」
「初対面でもわかります! 貴方からは、今だって奏多様の匂いがプンプンする!」
「あっ……」
匂いのする理由は分かっている、持たせられたネクタイだ。伊万里の心の中はいやな気持ちでいっぱいだった。ほんとうに伊万里は発情期が来たことで精神的に参っていた。苦手だった先輩の若王子が気まぐれだったとしても助けてくれて、本当に助かったのだ。
今、伊万里と若王子が訳の分からない関係であることは伊万里自身がよく分かっている。
アルファとオメガが仲良くしているだけで、初対面の人からこんな風に言われてしまうのだ。
怒りに身を任せて伊万里のことを調べ、他校まで押し入ってくる。それで恋が叶うわけもないのに。この人の気持ちを想像したら、なんとも薄暗く悲しい気持ちになってしまった。
「いやな思いをさせてごめんなさい。でも、俺にしてあげられることはないです」
我ながら情けない発言だと思った。もっと上手く言えたらいいのだが、口が勝手にベラベラと弱気なことを喋っている。
「これ以上なにか言いたいことがあるなら、別の場所でお願いします。ここ、学校だし……そもそも、貴方部外者じゃないですか。この高校の人じゃないでしょ? だったら……」
そう言うと、彼は「言いたいことは全て言えました」と吐き捨て、いなくなってしまった。
「もー、なんなんだよ~」
彼がいなくなったのを見計らって、教室の中からクラスメイト達がそろりと歩み寄ってきた。げっ、みんなに聞こえていたんだ。伊万里は何とも言えない嫌な気持ちになったが、教室の目の前で、こんな廊下で話していれば嫌でも聞こえる。
「伊万里~、大丈夫か?」
「ぜったい佐伯くんは悪くないよー」
傍にいたクラスメイトが心配そうに声を掛けてくれる。中には興味津々、と顔に書いてある子もいる。みんな現金だ、人が発情期で困っているときには見て見ぬふりをするくせに、こういう時だけノリがいいんだから。
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