7.鈍感オメガ

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「あの人、一体なんなのかしら。ヤキモチだよ、絶対。佐伯くん、ちゃんと若王子先輩に言わないとダメだよ」 オーボエの矢口さんが心配そうにそう言ってくれた。彼女とは部活動でも一緒で、教室でも席が近い。頼もしいクラスメイトだ。 「あ、あのさ、みんな何か勘違いしてない? 別に俺は先輩となんでもないんだけど……」 伊万里の主張はサラッとなかったことにされた。最近になって発情期が来たオメガだというだけでも伊万里は注目の的だったのに、今日のことで余計に話題になってしまいそうだ。 この鬱憤はもう、原因になった若王子にぶつけるしかない。伊万里は若王子に連絡した。保健室にいるというので、そのまま乗り込む。 彼は両耳にイヤホンをしていて、それは耳栓も兼ねているようだ。保健室のベッドでいつものように寝転んでいる彼を見つけた伊万里は、そっと背後から忍び込もうとした——…のだが、匂いでバレてしまったらしい。 「……ン、どうした、今日はいつもと違う匂いがするな?」 クンクン匂いを嗅がれる。嫌じゃない、嫌じゃないけど、すごくモヤモヤした。 「先輩っ! 先輩のせいで、俺、今日すごく嫌な思いをしたんです!」 怒りに任せて寝ている若王子のネクタイを引っ張ると、ぐえっ、と情けない声を出した。 「これ! この先輩のネクタイ!」 「どうした佐伯。何をそんなに怒ることがある。最近痴漢されなくなったって、昨日はあんなに喜んでいたじゃないか」 「そ、そうだけど……。今日ね、うちのクラスに先輩の許嫁だって人がきて……」 その言葉に若王子が飛び起きた。 「……なんだって? なんでその時に俺を呼び出さないんだ」 「だ、だって授業始まる時間だったし……」 保健室のベッド脇に二人で腰かけ、話をする。 「そいつ、やたら美人なオメガだったか?」 「はい。一度見たら忘れないくらいには」 「まったく、警備員は何をしているんだか。うちの警備、たまに煙草吸いにサボってるだろ?それを掻い潜って来るんだよな。……なんて言われた?」 どうして部外者が校舎に入って来られたのだろう、とは思っていたがまさか日常的に彼に会いに来ていたなんて。伊万里は嫌な気持ちになりながら、言葉を連ねる。 「あの人、自分は許嫁だって。俺に先輩から離れるように忠告してきて……」 「確かにそういう約束はした。でも親のしたことだ、俺が決めたことじゃない」
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