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「……っ、そ、そういうお前はどうなんだよ。どうして、どうして俺がこんなに必死なのに、お前は平気なんだよ!」
「へ、平気じゃないですよ。先輩が卒業しちゃったら、淋しいし……」
うん、そうだ、悩んでいたけど、これでスッキリした。
ちゃんと言わなければいけない。若王子は卒業してしまう、そうしたら今まで通りには会えなくなる。そんなのは嫌だ。
「俺、先輩のこと好き!」
「はっ⁈」
何故か若王子に頬を抓られて、伊万里はいてっ、と声を漏らした。
「……ゆ、夢じゃない」
「当たり前でしょ! 痛いですよ!」
えい、とやり返そうとジャンプしたらそのまま腕を掴まれた。ぐい、と体を引き寄せられる。
「先輩は俺のこと好き?」
「お前、俺のオメガになる気はあるか?」
「先輩と番になるってこと?」
「まだ噛まないぞ。未成年だし、在学中だからな。その気があるかってことだ」
「ふふ、いいですよ」
伊万里がふにゃん、と笑うと若王子も釣られて困ったように笑った。伊万里は手を伸ばして、思いっきりその腕の中に飛び込み、抱き着く。全然ロマンチックではなかったが、彼はたどたどしく抱き返してくれた。
「お前が好きだ、佐伯。卒業しても俺の傍にいてくれ」
「はいっ」
好きな人が自分のことを好きだということが、こんなにも嬉しい。
「若王子だからって、中学生の俺に言い寄ってくるオメガは星の数ほどいた。今だってわんさかいる。有名人の息子のアルファというだけで擦り寄ってくるようなオメガなんて、なんの面白みもない。嫌いだった。でもお前は特別だ」
「あれっ、俺のことバカオメガっていうのは?」
「それはお前が本当にあんぽんたんだから」
若王子は子どもみたいに屈託なく笑った。
「でもお前はあんぽんたんでも好きなんだ。こんなの初めてだ、バカだし運動もできないのに、愛想がよくて元気で明るい、可愛いだけのオメガが好きなんて。どうかしてる」
「せ、先輩、それ貶してます?」
「貶してない。お前はその、いい奴だ。いるだけで部室が明るくなる。だからサックスもお前が吹けば楽しい音楽になるし、何より楽しそうにノリノリで吹いているのがいい。エンタメとしての役割をきちんと果たしている。技術だけがあっても堅苦しい演奏をしたところで、観客はつまらないからな。そういう意味ではお前の演奏は……百点だ」
「す、すごい! 今、俺、先輩に褒められてる……」
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