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「ふっ、お前って本当にヘンな奴だな。俺に堂々と突っかかったり、喧嘩したり……抱き合ってみたり。お前だけだ、こんなの」
「変じゃないですよ、これが普通なんですってば。俺たち、まだ高校生だもの」
きっと、若王子の家はこの家の何倍も大きいのだろう。若王子は落ち着かない様子でリビングのソファーに座り、伊万里がホットプレートを運んでくるのを待っていた。
「先輩~、少し焦げちゃった!」
「ン、お前、どうして一番初めに焼いたやつが一番最高傑作なんだよ。普通こういうのはどんどん上手くなるもんじゃないのか?」
「そこまで言うなら先輩、お手本見せてくださいよっ!」
ぐりとぐらの絵本に出てくるようなパンケーキを作ろうとしたが、久しぶりに作るパンケーキはそれほどの厚みも出ず、ずいぶんと貧相だった。若王子の胃袋はブラックホールだ。甘い物ならどんどん飲み込み、早く寄越せと強請る。
「俺にできないことはない」
「本当かなあ」
若王子は何でも平均点以上にこなせる人だ。
できないことはない、その言葉に二言はなく、若王子が焼いたパンケーキはふっくらしていて美味しそうな仕上がりだった。
「わあ、先輩って本当になんでも出来るんだ! じゃあ、俺がやらなくても……」
「いや、お前が焼け、その方がいい。俺は今日食べる係だからな」
結局、すぐ焼くのに飽きた若王子はそう言って淋しそうに微笑んだ。
「焦げてもいいですか」
伊万里がそう言ったら若王子は、
「だめだ、ちゃんと焼け」
そうクスクス笑って髪にキスをくれた。若王子の視線は優しい。その優しさは伊万里のことが好きなのだと考えなくても分かり、伊万里はつい張り切ってしまう。
伊万里がホットプレートで次々とパンケーキを焼き、若王子がわんこそばのように次々と食べる。焼きたてのパンケーキにバターと塗りたくり、蜂蜜もたんまりかける。甘い物が好きなのだろう。
「……美味しかった。パンケーキ、お前みたいな匂いがしたな」
「そうなんですか?」
帰り道に名残惜しくて、手を繋いで歩いた。駅まで送ると言ったのは、名残惜しかったからだ。ふたりきりになりたかった。
「また一緒にご飯を食べましょう」
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