9.新しい季節

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伊万里は彼氏特権でいつでも若王子に演奏を見てもらえる。ひとり暮らしだというのに防音室が寝室を含めて二部屋もある若王子のこの部屋は、両親が買い与えてくれたものらしい。各音楽大学へのアクセスがよく、そのために作られたマンションは音大生や音楽家たちが集まっている。 週末になると、伊万里は若王子の家に招かれた。 「伊万里、お前も卒業したらウチに来ればいい。ここからなら、大体の大学は通えるだろ」 「いいんですか?」 よく考えれば同棲の誘いだというのに全然ロマンチックじゃなくて、伊万里と住むのがさも当然のことのように言われて伊万里は微笑む。 「残念ながら間取り的に個室は与えてやれないが、寝室も防音だから別々に演奏することだってできるぞ。悪くない条件だと思うが……」 彼は大真面目に言う。 「もしかして先輩は最初から俺と過ごすつもりで……?」 「当たり前だ」 まだ高校二年生なのに、伊万里の人生は順調に若王子のペースに嵌まっている。実際、若王子の部屋なのに伊万里の私物の方が多く、歯ブラシやコップ、食器も二つずつ。家事に不慣れな若王子はとにかく洗濯物をクリーニングに頼んだりハウスキーパーを入れようとするので、それを阻止して週末に伊万里が洗濯や掃除をしている。 「先輩ったら、俺のこと大好きなんだ!」 「なっ、何をいまさら……」 若王子は困った顔をしていた。 伊万里はまだ高校生なので週末泊まるのも遠慮する時があるが本当は帰って欲しくないらしく、今日も時計を見ながら溜息を吐いてばかりいる。というか、拗ねている。 「今日は泊まって行かないんだろ」 「すみません、明日は兄が帰省してくるんです」 「月末は予定を空けておけ」 そう命令口調で言った彼が持っているのは世界でも有数のテーマパークの入園チケットで、可愛らしい絵柄が印刷されている。 「チケットが二枚あるんだ。お前、行きたいって言ってたよな?あ、まさか演奏会か?違うよな?演奏会は来月な筈だ。いやまてよ、ということは合奏練習日の可能性もあるか……?」 若王子は一人でブツブツ言っている。 「ふふ。行きましょう。ちなみに演奏会は来月だし、練習日はまだ先です」 「……そうか。じゃあ、行くぞ」
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