9.新しい季節

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このシューケットくんはこのパークの人気キャラで、カップルを見つけてはこうしてイタズラすることで有名だ。ごめんねえ、と大きくおじぎして最後には若王子に二つ分のお菓子の包みを持たせて、走り去っていった。 「おお、シューケットくんだけに、中身はシューケットですね」 「ん、美味い。伊万里、お前も食べてみろ」 若王子はこういう人混みは苦手なのかな? と思っていたのだが、そんなことはないようだ。 時に真面目にツッコミを入れながら、パレードもアトラクションも楽しんでいた。 園内を歩くキャラクターと同じくらい若王子も目を引くようで、すれ違う女子たちにきゃあきゃあ言われている彼のことを、伊万里は改めて眺めていた。 (若王子先輩、忘れてたけど、確かにカッコいいんだよな……怖いけど) でも、当の若王子は女性や家族連れに群がられているシューケットくんを見ている。 「あの犬は人気があるんだな。お前、こういうところにはよく来るのか?」 シューケットくんが赤ん坊を抱っこしている風景を、若王子は不思議そうに眺めている。 「はい、でも年に一回くらいかな。前来た時、シューケットくんには会えませんでした。シューケットくん、家族で来るとああやってサービスしてくれるんですけどね」 「確かに家族連れもけっこういるな……ウチは両親がああだから、こういうところには来たことがない」 「そっか、もしかして先輩初めて来たんですか?」 「そうだ。お前んちは好きそうだな、こういう場所」 それなら、この若王子のテーマパークに来たとは思えない横柄さも理解出来るかも知れない。 「そうですね。ウチの両親、週末はよく遊びにつれて行ってくれました」 「佐伯製薬と言えばそれなりの大企業だけど、お前は金持ちという感じがしないな。両親はそっちの仕事はしていないのか?」 「俺の両親、アルファとオメガ製品の仕事をしているんです。このネックガード、母がデザインしたものなんです。製薬会社は祖父母と叔父が経営してますけど、両親は関与していないみたい」 「ふうん、道理でそれもいい首輪だと思った」 「く、首輪!」 ネックガードのことを首輪だと揶揄して言う人は一定数いるが、直接面と向かって言われたのは初めてのことだった。思わずカチンときて、伊万里は若王子の脛をえいと蹴っ飛ばした。 「……っ! な、なにをするッ」
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