9.新しい季節

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「聞かれた人はビックリしたんじゃないかな。ふふ、先輩がそんなに俺のこと考えていてくれるなんて、嬉しい。完璧なデートでしたよ」 チェックインして、エレベーターに乗る。人目に隠れて若王子がキスしてきた。 「やだ、ここエレベーターですよ」 「分かってる」 伊万里に言われて、拗ねたようにやめる若王子が可愛らしい。 「……部屋に行ったら、ですよ」 「はやく続きがしたい」 エレベーターが加速していく。部屋はもうすぐそこなのに、若王子は我慢できないようだ。伊万里に啄むようなキスをしてくる。笑いながら伊万里はそれを受け止め、二人でクスクスと笑った。子どもみたいに、なにもかも我慢できない。 若王子は後ろ手でドアを閉めると、玄関の狭い空間で伊万里に抱き着いてきた。初めてして、あれから発情期が来るたびに抱き合ってきた。互いに触れたことのない場所はないというくらい、たくさんした。 それなのに初めてした時のように彼は興奮していて、それに引きずられる形で伊万里も火が付く。きっと自分の中にも種火があったのかも知れないと思う。言葉を交わす余裕もなくてベッドまで行くその廊下に脱ぎ捨てたジャケットやシャツが散らばった。噛み付くようなキスはアルファらしい。犬歯がギラギラと光る。 「先輩の歯、すごく痛そう」 「いつも甘噛みにしてやってるだろ。本気で噛んだことなんてない」 いつも若王子が噛むのは耳たぶばかりだ。 いつか本気で噛まれるとしたら、うなじなのかな……と想像を巡らせる。 「先輩、きて」 そういえば、今日は発情期じゃない。 濡れていない時にする初めてのセックスは手間取って。伊万里は自分で解そうとしたが焦ってしまい上手くいかなかった。見られていると思うと恥ずかしい。 「貸せ、やってやる」 「で、でも……」 伊万里は腰を突き出すような恰好になってしまった。慣らして貰うとはいえ、いやらしい格好だ。指で入口を撫でられて身震いする。欲しかったものが入ってくる、その感覚は言葉にできない。 「お前、ココ好きだろ?」 「……う、いじわるしないで……っ」 若王子は縁に指を引っ掛けて伊万里の反応を楽しんでいるようだった。浅いところがどれだけ弱い部分化ということも分かっているくせに。腰が早く欲しい、とせがむかのように揺れてしまう。 「お前の中、発情期じゃないのに吸い付いてくる。これなら大丈夫そうだな」
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