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「この周辺を守っていた要、もらっていきます。必要ないですよね?」
広希が応えないので、仕方なく報告を終えたおれが対応した。
「昭人くん、それじゃ悪役だよー」
「言ってわかんねえんだからしょうがねえだろ」
「いい拾い物したよねえ」
「うん、人間好きな思惟なら連城家としてはラッキーだな」
さて帰るか、とひとつ伸びをする。
「帰るよ美刀、なにやってるの」
じっとたたずんで動こうとしない美刀を不審に思い、広希が声をかけた。
『……離してくれん』
よく目を凝らして見ると、このあたり一帯から糸が伸ばされ、美刀の全身に絡みついている。なかなかホラーな光景だな、と眉をひそめてしまう。
「私の守護だから返してね。君たちの中から、また主格を選べばいいよ。この子、弱ってるから助けさせてね」
広希がおだやかに声をかけても思惟たちの糸はほどかれない。その言葉に力がないわけでもなさそうだが、これが広希の言う思惟が興味を引かないってことなんだろう。
おれなら、できるのかな。
……でも。
「浄火」
今さら、この人の奥に隠されている傷をえぐって何になる。
ふわりと現れた浄火は、こちらの気持ちを見透かすような笑顔をみせた。
なにも言わなくとも、通じている。
「頼めるか?」
『うん』
短く言って、美刀を取り戻しに行った。
ぼうっとしてるからよ、と文句を言う浄火に、無理に引っ張ると痛いだろうなと考えていた、と応える美刀に、それをぼうっとしてると言うのよ! とぷんすか怒る思惟たちのやりとりはなんか和む。
美刀はできないのではなく、外そうかどうしようか悩んでいたらしい。
浄火は糸にすこし触って諭すようなことを言いながらほどいていく。
「い、今の赤毛の子供は……どこから」
「あ、見えてました? 緑の中に宿る思惟です」
「そんな……バカな話が……」
うん、あるわけねえな。おれも元は一般人だったからその衝撃の大きさはわかるつもりだ。
「あ、お帰り美刀」
『どうしよう広希……』
「ん?」
『支えきれない』
無事に戻った美刀に笑顔を浮かべていた広希が、瞬時に真面目な顔つきになる。
「わりと落ちる?」
『もうすぐ落ちる、あの民家まで』
ち、と広希が舌打ちする。広希が慌てるということは余程の事態だ。
「住民、避難させます!」
先に走りだそうとするも、やめて、と浄火に引き留められてしまう。
『昭人くんが危ないから!』
その間に広希が駆け出し、崩れ落ちそうな斜面の下に立った。
「なに考えてんだあの人!」
こちらを見ながら笑って、崩れる土砂に身を任せた。
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