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「思惟?」
『崩れるから、根に足を乗せて』
人懐っこいってレベルじゃない。本当に人が好きで、守ろうとしてくれる。
「あんた連城家に来るのいいけど、守護する人間はちゃんと選べよ」
いい子というのも変だが、扱いやすい思惟と思われて利用されそうで心配になる。
『百年たてば皆いなくなる』
まあそれもそうか、と妙に納得してしまった。生きてる時間の差は大きい。
ありがたく、剥き出しになった根の上に足を置かせてもらい、このあたりならいける? と枝に触れる。
「思惟に負担があるかどうかはわかんねえけど」
剪定鋏をポケットから取り出す。無理に力を入れてへし折るより傷口を小さくできる、と父から託されたものだ。
ストッパー金具を外して枝に指をかけ、鋏を入れた。
「うわ!」
瞬間、巨木が抱えていた土が滑り、またたく間に土砂が道路に広がった。
もし思惟の根の上にいなければ、おれも一緒に道路へすべり落ちていただろう。
「焦ったー。ありがとな」
手の中にいる思惟に、そっと感謝を告げた。返事はなかったけど、移動するのに力を使わなくしてるんだろう。
「な、な……にが」
声も体も震えている監督を無視して広希がひらりと手を振る。
「じゃ、昭人くん。あとよろしく」
「はいよ」
広希の携帯は通じないだろうから、おれが連城家に後始末の電話をかける。
「どういうことなんだ!」
「これで抜け殻になりましたから工事しても大丈夫です。ただ、水害は起きますけどね」
にこやかな広希の声が容赦なくて、背筋が凍りそうなぐらい恐ろしい。
「なぜ……」
そりゃ言って理解しない相手だから言われた通りにしただけだ。
忠告はした。それをどうするかは連城家には関係ない。後に起こることまで責任は取れない。
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