3 昭人

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「思惟?」 『崩れるから、根に足を乗せて』  人懐っこいってレベルじゃない。本当に人が好きで、守ろうとしてくれる。 「あんた連城家に来るのいいけど、守護する人間はちゃんと選べよ」  いい子というのも変だが、扱いやすい思惟と思われて利用されそうで心配になる。 『百年たてば皆いなくなる』  まあそれもそうか、と妙に納得してしまった。生きてる時間の差は大きい。  ありがたく、剥き出しになった根の上に足を置かせてもらい、このあたりならいける? と枝に触れる。 「思惟に負担があるかどうかはわかんねえけど」  剪定鋏をポケットから取り出す。無理に力を入れてへし折るより傷口を小さくできる、と父から託されたものだ。  ストッパー金具を外して枝に指をかけ、鋏を入れた。 「うわ!」  瞬間、巨木が抱えていた土が滑り、またたく間に土砂が道路に広がった。  もし思惟の根の上にいなければ、おれも一緒に道路へすべり落ちていただろう。 「焦ったー。ありがとな」  手の中にいる思惟に、そっと感謝を告げた。返事はなかったけど、移動するのに力を使わなくしてるんだろう。 「な、な……にが」  声も体も震えている監督を無視して広希がひらりと手を振る。 「じゃ、昭人くん。あとよろしく」 「はいよ」  広希の携帯は通じないだろうから、おれが連城家に後始末の電話をかける。 「どういうことなんだ!」 「これで抜け殻になりましたから工事しても大丈夫です。ただ、水害は起きますけどね」  にこやかな広希の声が容赦なくて、背筋が凍りそうなぐらい恐ろしい。 「なぜ……」  そりゃ言って理解しない相手だから言われた通りにしただけだ。  忠告はした。それをどうするかは連城家には関係ない。後に起こることまで責任は取れない。
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