少女物語

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 起き上がるため、体を起こす。重い。服を後ろから誰かに引っ張られているような感覚だ。あたしはその重い体を何とか動かして、階段を一段ずつ下った。やっぱり、倦怠感。  冷蔵庫を開けると、冷気がふわっと流れ、熱を持った私の体をくすぐった。 冷蔵庫の明るさに慣れず、目を細めながら見ると、中に食べ物はほとんどない。あるのは水と、オレンジジュースと、一昨日の通夜振る舞いでもらった余りものくらいだった。あたしはその中から水が入っているペットボトルを手に取って、蓋を開け、傾けた。  冷たいものが体の中を通っているのが分かる。少し、鳥肌が立つ。 「ぷはっ」  一気に飲んだから、少し息が詰まりそうになった。ペットボトルの中身は半分くらいまで減っている。あたしはそれを机の上に置いて、倒れ込むように黄ばんだ椅子に腰かけた。  外から聞こえる蝉の声がいくつにも重なってあたしの鼓膜を打ち付ける。  こんな真剣に蝉の声を聞いたのは久々のことだ。ちょっと五月蠅い。でも、なんだか今のあたしにはそれがよく心地よく思えた。  しばらく、その蝉の声と台所に流れる冷たい空気にあたしは埋もれていた。  
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