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あなたが亡くなったことを知ったのはその十年後、J国のさびれたアパートメントに隠れ住んでいる時だった。
L国の総理大臣を拉致しようとして相手方のボディーガードに射殺されたのだという。
あなたが現役を続けてこれたということは、私の殺人に失敗したことは結局ばれなかったということでもある。
もう裏稼業から足は洗っているとはいえ、生きるために必要な情報を遮断するわけにはいかなくて――それゆえ私を狙いそうな国や会社、人物についての動きは常に把握し続けていた。そこには当然あなたも含まれていた。
入手したあなたの近影はモノクロでもあなたそのものの優しさにあふれていた。
「……あ」
ぽたり、と涙が手の甲に落ち、私は自分が泣いていることに気づいた。
あなたの訃報を知った瞬間、私は喜ぶべきだった。私をだまし、殺そうとしたのだから。それに私が実は生きていると知ったら真っ先に私を狙いに来る人物はあなただ。
「……ああ」
なのに――気づけばあとからあとから涙がこぼれた。
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