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その夜、私は一風変わった夢を見た。
私は若く、美しかった。そしてS国のA山の頂に立っていた。あの桜の大樹は満開だった。そして淡いピンクの花びらが舞う中心であなたがほほ笑んでいた。
『僕と結婚してください』
そう言ったあなたが取り出したものは指輪だった。
『僕は死んでも君を幸せにしたいんだ』
『なにそれ』
唐突かつおかしな台詞に笑ってしまった。
『前は「死ぬまで私を幸せにしたい」って言ってたじゃない』
『生きている間、僕は君を幸せにできなかったから……』
あなたが悲し気に目を伏せた。
『でも君を幸せにしたいと思っていたのは本当だ。君を愛していたのも本当だ。だから君がこちら側にいなかったことを知って、僕がどれほど嬉しかったか』
『……こちら側?』
あなたは私の質問には答えなかった。
『僕をゆるしてくれるなら……いいや、僕をゆるさなくてもいいから。お願いだ。これからは僕をずっと君のそばにいさせて。今度こそ。僕が死ぬまで』
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