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不思議な夢の効果か、それともすぐそばで眠る黒猫が理由か。目覚めから私はどこかふわふわとした心持ちになっていた。その浮遊感を抱いたまま、私は朝一で黒猫を病院に連れていった。
「推定一歳、オスですね。野良猫のようですが、今後はあなたが飼う予定ですか?」
あらかたの診察を終えた後、医師に訊ねられた。これに私は自然とうなずいていた。
「そうですか。よかった。ところで名前は決まっていますか?」
「名前は――」
迷ったのは一瞬だった。
「ティムです」
*
その後もまめに通院し、黒猫はすっかり元気になった。去勢させ、最終的にはマイクロチップも入れ、これで私は名実ともに黒猫の飼い主となったのである。
「ねえ。あなたはティムなの?」
ある日、窓際で日向ぼっこをする黒猫に訊ねてみた。けれど黒猫は何も言わなかった。大きなあくびをし、瞳を閉じ、やがて気づけば眠っていた。
少し開いた窓の向こうでは桜の花びらがひらひらと舞っている。
黒猫と、桜と。両方をなんとはなしに眺めていたら私の瞼も重くなり、黒猫の隣で背中を丸めて眠りについた。
了
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