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「疲れた?」
「いいえ」
何度も振り返るあなたに私はそのたびにゆるく首を振る。
「でも今日はなんだか静かだ。いつもより元気がないみたいだね」
「そんなことないわ」
どうして私は今日、この登山をすることを受け入れたのだろう。頂上に着けば、あなたは私を殺そうとするのに。それがわかっていて、どうして――。
「荷物、持とうか」
「大丈夫よ」
安心してほしくて――油断させたくて――笑ってみせると、あなたは少しためらったものの、「もう少しだから」とまた前を向いて歩きだした。
「……ふう」
あなたに気づかれないよう、そっとため息をつく。このリュックサックには護身用の銃とナイフをひそませているから、あなたに持たせるわけにはいかないのだ。それと、水筒。無味無臭の特別な薬を溶かしてある果実水が入った水筒にも気づかれるわけにはいかない。
私にあなたを殺せるだろうか?
その疑問はあなたの告白を受けてからずっと私の頭の中をめぐっている。
私自身は三年前に裏稼業から足を洗っている。けれど今も最低限の鍛錬は欠かさない。いつ誰に寝首をかかれてもおかしくない所業を繰り返してきた自覚はあるからだ。でもまさか初めての危機が愛するあなたによってもたらされるとは……。
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