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頂上にたどりつくと、確かにそこには一本の桜の大樹がそびえていた。ただ、桜はくしくも散っていた。
「ごめん。これじゃあ理想的なプロポーズにはならないな」
あなたが困ったように笑い、私の胸がつきんと痛んだ。そうだ、私はあなたのそういう笑顔が好きだったのだ。
「ひとまず休みましょう?」
「うん。そうだね」
青々とした葉桜の下にあなたが嬉々としてピクニックシートを敷く。その様子を見ながら、私はそっと唇をかんだ。これはチャンスだ、と。今しかない、と。
「……喉、乾いたでしょ。果実水を作ってきたから飲みましょう?」
少し声が震えてしまったけれどあなたは気づかなかった。ただ、次の瞬間、私は見てしまった。まだ開いたままのあなたのリュックサックの奥、鈍く光る黒い物体を。見慣れた金属製の物体を。
ごくり、と自然と喉が鳴っていた。
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