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春も夕暮れ時にもなれば寒さが強まる。
「これが例の敏腕殺し屋か」
「ええ」
くもぐるような声でも、それがあのN国のスパイとあなただということはわかる。
「新人のくせによく殺れたな。どうやったんだ?」
「企業秘密だ。じゃあ僕はこれで」
あなたが足早に去っていく。ただ、その足取りはどこかおぼつかなかった。
「ふん。女一人殺したくらいであんなに動揺してたら、この業界じゃあ長くはやっていけないな」
スパイのあざけるような声をあげた。
「さあて。それじゃ遺体を運ぶとするか。……ん?」
スパイがそれ以上の驚きを口にするよりも早く――私は仮死状態だった体で強引に起き上がるや、袖口に仕込んでおいたナイフでスパイの首を一息に掻き切った。
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