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鈴虫のリンリン声が響く──。
電話のやりとり。
男子の声は薄いノイズエフェクトかけて、ちょっと遠い感じにする。
男子。
「…日付変わったぞ。もう眠いんじゃないのか」
コーヒーカップを置く音、女子の声。
「…まだ、話していたい」
ためいき、男子。
「俺だって寝なきゃいけない。さっきから無駄話してるし、だいぶ虚ろだぞ、おまえ」
女子。
「…まぁ、眠いのは眠いよ。でも、言いたいこと言ってないもん」
男子、また吐息。
「なら、言いたいこと言って早く寝ろよ。だらだらしてる間に1時になるぞ」
女子。
「言ったら言ったで長くなるし、眠れなくなるし」
男子。
「なんだよ、それ」
女子。
「…好きな人の話。気持ち伝えたら良いかどうか迷ってて」
男子。
「それは俺が答えられることじゃないな。おまえ意外にモテるから、平気じゃね?」
女子。
「言い方軽いよ」
男子。
「関係ねーからな。そんな話なら、俺より友達の方が親身になってくれるんじゃね?」
女子。
「ええー、親身じゃないの? じゃあなんで相談に乗るとか言ったの?」
男子。
「なんか、うちの犬を迎えたときみたいに心細そうだったから。おまえが悩んでんなら、エサぐらいあげようかなって思ってさ」
女子。背後にうすーく、きらきら音。
「気持ち伝えて平気かどうか占ってよ」
男子。
「占い師じゃねーから分かんねーよ」
女子。
「だったら、直感でいいよ。それを信じる」
男子、三度目のためいき。
「…平気じゃね? って言ったろ。おまえモテるんだから」
女子。
「私、キミにも…モテてるの?」
男子。
「ノーコメント」
女子。
「でも、平気なんだよね? 伝えたらいいんだよね?」
男子。
「保証はしない。ただ…」
女子。
「ただ…?」
男子。
「おまえがイチャついてるのは見たくない。学校では隠せよ。端から見ればめっちゃつまんねー話だから、それ」
女子。
「…そか、分かった」
男子。
「じゃあな。俺もう寝るから」
女子。
「…好きだよ」
男子、盛大に吐息。
「嘘つけ。なんだよ、俺は練習台なのかよ」
女子。
「キミの直感は外れない。でも…」
男子。
「でも、なんだ?」
女子。
「今夜は眠れそうにないから、あとちょっとだけ話そうよ。キミの声、聴いていたい」
男子。
「眠いんだろうが」
女子。
「どきどきしてるから、まだ寝れない。ちゃんと返事もらって安心したら寝れるかも」
男子。
「寝オチすんなよ。練習台はタダじゃねーんだ」
女子。
「くすっ、本番は明日…かもね」
鈴虫のリンリン、フェードアウト。
テーマソング、フェードイン。
~おしまい~
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