〇2左右対称

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 教室の講師の方は、クリーム色のシャツが良く似合うお淑やかな五十代の女性の方だった。  店長から聞いていた通り、その教室のお花作りは、お客さんの要望に合わせつつ五分のスピードで作る店先のお花作りとは全く別のもので、ゆっくりと穏やかな時間の中で完成させる、芸術品のようなものだった。  それでも配色の基礎知識や、言葉のイメージから花の色合いを決めていくやり方など、勉強になることの方が多かった。  時間がたっぷりある中で作る私のお花は、それでも不格好になる。 「あら、どうしました?」  手を休め考えあぐねていると、講師が話しかけてきた。 「どう作ったら良いかわからなくて……」  講師は私のいびつな形のお花を見ると、ゆっくり頷き、手を叩いた。 「皆さんは生け花とフラワーアレンジメントの違いを知っていますか?」  講師の問いに、私を含む、数人のマダムは顔を見合わせて沈黙した。 「生け花は生ける花全てに意味があるという考え方で、自然のままの左右非対称の美しさを大切にしています。一方、フラワーアレンジメントでは左右対称で均整のとれたものが美しいんです。フラワーアレンジメントの教室ですから、シンメトリーを意識して、バランスを大事にしながら、お花を作ってみてください」  均整の取れたという言葉を聞いて、ふいにヒロを思い出していた。ヒロは私の中で一番、左右対称性に近い男性だった。  西洋建築のように、きっちりとしっかりとしている。ヒロが普段着ている色や、趣味趣向を思い浮かべながら、手を動かしていった。ヒロならどう作るだろうか、ヒロの好みは、という風に考えていくと、面白いように手が動いていった。  日常生活でもお花作りでも左右対称を目指すのは難しい。少しでも形や色が違っていたら、それに合わせて何かを足したり引いたりしていかなくてはいけない。ちょっとのズレも許されないのだ。  心がける度に完璧なヒロの凄さに気づき、ヒロがどんどん遠くへいくような気がした。  教室での特訓が功を奏したのか、仕事も段々と上手くいき始めていた。接客でもお花作りでもバランス感覚を意識した。
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