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社員になってから数日後、ヒロの友人夫婦とご飯を食べることになった。
その友人は一番の親友らしく、ヒロは私をどうしても紹介したいという。「何で? なぜ?」と私が及び腰でいると、「君が大切な人だからだよ」と恥ずかしげもなく言うのだった。
場所は都内にある料亭の個室だった。
ヒロからプレゼントされたブランドの服を身にまとい、友人夫婦を待った。ほどなくして二人はやって来たが、男性の方は、類は友を呼ぶというか、如何にもヒロと同じような上流の雰囲気を持った人だった。
海外にいた時の幼馴染のようで、ケイスケさんといった。奥さまのマヤさんは元モデルで、昔、有名ファッション誌で表紙を飾ったこともあるらしい。
八頭身のスタイルとブランド物のファッションが調和していて、私のように着させてもらっている、という感じではなく、明らかに着こなしていた。
会食は和やかに始まったが、この場では、私は明らかに異物だった。料亭なんて行ったこともないからマナーもわからないし、目の前にいる彼女のようにブランド物なんて普段から着なれてもいない。
駅前にある小さなお花屋で、水と花粉にまみれながらあくせく働いている自分には合わない空気だった。
「どんなお仕事をされているんですか?」
マヤさんは、ずっと黙り込みながら苦笑いを浮かべていた私を気遣ったのか、そう聞いてきた。
「お、お花屋で働いています」
「まぁ!」
マヤさんは両手をポンと合わせながら、微笑んだ。
「あなた、今度お願いしましょうよ」
マヤさんは隣にいるケイスケさんに話しかけた。
ケイスケさんも「そうだね」と頷いた。
「あ、こちらこそぜひお願いします。サービスします」
そう言いつつも、マヤさんに満足してもらえるようなお花があるだろうか……と心から微笑み返せない自分がいた。
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