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さらに、ヒロは二人に、私が自ら進んでお花の教室に通い勉強を続け、先日ついに社員に昇格したことを、自慢げに話し始めた。
「それはおめでとう!」
「お祝いしましょうよ!」
マヤさんとケイスケさんは店員を呼ぶと高そうなお酒を注文した。
「これは僕らからのプレゼントです」
ケイスケさんは笑った。
みんなここにいる人たちは、全く嫌味がない。でも素直に喜べない自分がいる。なぜだろう、恥ずかしすぎてこの場にいれない。
この状況は出来の悪い子犬が、ようやくチンチンやお手ができるようになり、そのことを喜ぶ飼い主たちの風景に似ている。そんな風に考えてしまう私は性格が悪いのだろうか。
私の話題から逸れてくれることを願っていた。
「このネクタイも彼女が買ってくれてね。このシャツと良く合うんだ」
私の願いとは裏腹にヒロはそう言って自慢した。私が頑張ってプレゼントした高級ネクタイも、この場では二流品に過ぎない。私のせいでヒロ自身のステータスを下げることになるのでは、と思うと嫌な汗が出た。
出てくる料理やお酒は最高級なものばかりで、みなさんも良い人ばかり。でも何かが違った。私は電話に出る振りをして席を立った。
「すいません。ちょっとお仕事で呼び出されてしまって、行かないと」
バツの悪そうな顔を作りながら、私はそう言って戻った。
「え、大丈夫?」
「う、うん」
荷物を取ると、私は何度も頭を下げながら個室から出ようとした。
「まぁ、大変」
「今日はもうお開きにしましょうか?」
「いえいえ、お気になさらず。本当にごめんなさい」
私は大丈夫だからと、ヒロを安心させつつ料亭を飛び出した。当然、お店にトラブルなどは起こっていない。トラブルどころか今日は定休日である。
立ち並ぶ高級ブランドショップのネオンに照らされながら、ウインドウのガラスに映る自分を見た。
頑張って背伸びをしても、背伸びは背伸び。八頭身のスタイルには到底なれない。そんなことは分かっていた。
歩きながらいくつもの高級料理店を眺めた。
高級店であればドレスコードがあるように、恋愛にも目に見えないドレスコードがあるのかもしれないと思うと、やけにネオンが眩しく感じた。
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