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〇4わからない
私は気がつくと、フラワーショップに向かっていた。
定休日のはずのお店には電気がついていた。ただ、シャッターは閉まっていたので、裏口から入った。お店の奥では、ケイコ先輩が神妙な顔つきでパソコンを叩いていた。
「あら、今日は休みでしょ?」
私に気づいたケイコ先輩はそう言った。
「ええ、まぁ」
「なんでいるの」
私は先輩の問いには答えず、近くの椅子に座りこんだ。タイトな洋服がお腹の肉に食い込んで、やけに息苦しい。
「良い服着てるのね」
先輩は作業しながら、私の方は見ることなくそう言った。
「先輩こそ、何でいるんですか?」
「二号店の計画書を作ってるの」
「先輩、二号店の店長になるんですか?」
「まだ内緒だったんだけど、まぁね」
先輩は喜ぶことなく、頭をボリボリ書きながら、パソコンと睨めっこを続けていた。
「お、おめでとうございます」
「ありがと」
先輩はこちらには目もくれずそう言った。私は無言で、椅子を片付け、先輩にお辞儀をした。
「お疲れさまでした」
私がお店を出ようとしたその時、「あ、あのさ」と、先輩が言った。
「は、はい」
「私と一緒に行かない?」
「え?」
「あんたとだったら、上手くやれる気がするなぁって。最近の仕事ぶりを見ててもそう思う」
「二号店って遠いんですよね」
「うん、引っ越しが必要だね」
「私……」
「どうせ彼氏とうまくいってないんでしょ?」
「はぁ? そ、そんなことないですよ」
「そんな顔してるけど」
私は何も答えず、軽く頭を下げると、そそくさとお店を出た。
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