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「はーーい、ご飯よーーー」
”きたっ”
よく通る母親の声が一階から響いた。2階の部屋、階段に近い一室だが出遅れた感が半端ない。
三つ上のお兄ちゃんは現役大学ラガーマン。『はー』の時点で寝っ転がって漫画を読んでいた姿勢からボールを持つ相手にタックルする姿勢でいたはず。
六つ上のお姉ちゃんは一階の客間で幼児をあやしていたはずだ。自分も親として徐々に料理をするようになって勘が優れている。
カウンターキッチンに隣接するリビングにいた父親はチート位置
お兄ちゃんが部屋の前を通る気配は感じなかっただが、ドカドカと階段を巨漢の利を活かして転がり落ちてもかまわないという覚悟で降りている。
完全に遅れた
着順
一位 当然の父親
二位 二階から逆転のお兄ちゃん 差二秒
三位 幼児に足を引っ張られたお姉ちゃん 差三秒
四位 僕 差五秒
我が家では頂きますは『いっす』と省略され席についた順に食事バトルが始まる
箸は八本
長く生きている分の技術力の父
握力最強のお兄ちゃん
幼少期からの癖が直らない使い方が器用になって武器となっているお姉ちゃん
取り柄薄い僕
お兄ちゃんは花園準優勝で名門大学に推薦入学し、ずっとレギュラーの座をキープしている。
今晩は久々に寮から帰宅しゆっくりして、一戦に備えていた。
スピード離婚をしたお姉ちゃんは幼児を連れて実家に戻ってきた。
ストレスで食い意地が倍がけで、子供の成長なんかよりずっと成長中
食品関係で勤続している父親。家の外では食通、味にうるさい男と品格をどうにか保っているが、本来の姿は暴食漢。二十代の頃は地方の店で大食いに挑戦するのが楽しみの一つだった。
将来の亭主の大食いチャレンジを目の当たりにした地方娘が母親。大規模農業一家の娘で大食い家族を支える料理上手。作る速度が中華飯店並。振る舞う専門で少食、お姉ちゃんの幼児をおんぶしながら家族の食事を見守る守護神。食材の多くは実家から届く。
この家族の中で育った僕は戦いで負けてばかり。だが、特別のメニューによって覚醒する。白身魚のフライとエビフライ
「カチカチ」
始まった。箸の空中戦、行儀悪いことはなはだしい。
刀が重なり合うかのごとく、お姉ちゃんとお兄ちゃんの鳥唐揚げの山の上で繰り広げられる大きいピースの取り合い。巧者の父親は下段の鳥唐揚げをつまむ。鳥唐の山は崩れ、陣形を変え、お姉ちゃんに有利な方へと転がる。瞬時に箸を移動させるお姉ちゃんに好機と思いきや、迷い箸をしていた僕の箸に進路を邪魔され、お兄ちゃんが隙ありと飛びかかる。
結果は一つ目をすばやく口に運び、戻ってきた父親の箸が大きいピースを確保。
オッズ
早食い大食い大会成功経験者 父親 三倍
食事も練習と日々の鍛錬で慣れているお兄ちゃん 一点五倍
回転寿司屋では無双するが、食卓では劣勢なお姉ちゃん 十五倍
特売の特大ブラックタイガーがある晩飯で発揮する可能性を秘めた僕 三十倍
さあ、皆さん誰にかけますか?
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