あなたのおかず総取り合戦

11/12
前へ
/12ページ
次へ
「っちょっちょどーしたの?」 ななみが幸をみて驚く 「うっうん。スッーハッー」 審判は判断をしかねた。初めて見る。審判が一人の人間になり、女になってしまった。 幸が泣き出した。 どっちだ。この涙はいったいどっちなんだ。 「いいやつだったなー。ヒーー」 幸は涙を拭おうと手を目に持っていこうとする。隣に座るななみが咄嗟にその手を止める。手には香辛料が付着している。 審判のゴーグルが曇る。ななみの敵ながら気遣えるスポーツマンシップに、涙もろくなった母親のジャッジに狂いが出た。お姉ちゃんがティッシュを母親に渡し、母親はゴーグルを外し涙を拭う。 なんじゃこりゃ ちり子は友情を微笑ましく見守りながらデスソースをかけたタコスをぺろり。 「ねえ、キーマン覚えてる?」 ちり子が平気な顔して話題を振ってきた。 「え?キーマンって2丁目にあったお菓子屋ですよね?」 僕が答えた。甘味を思い浮かべる事は辛さを緩和させた。 「うん。そう」 「覚えてる。皆でよく行ったよね」 お姉ちゃんら世代には青春の一ページの店だったようだ。僕は子供の頃に母親に連れて行かれた経験しかない。 「同級生いたじゃん」 「MR キーマン」 ななみが即答する。 「ちょっと変わった子だったよね。綺麗な顔立ちしてたけど」 やはり話題は男 「今だから言うけど、ちょっとだけ」 「ヒーーー!!」 「ハーーー!?」 チゲ鍋に手をつけたお姉ちゃんとななみが反応、だが今度も難しい判断。 「別に付き合ったりはないよ」 「ヒ〜〜」 「ハ〜〜〜」 僕と幸がグリーンカレーで反応。 「なんであんたまで驚くのよ」 お姉ちゃんに突っ込まれる 「だって、妹が僕と同級生で」 「えっなに?あんたもしかして、ヒー」 「ほー、隅に置けないねー弟くんも」 ななみは口角をヒクヒクさせながら嬉しそうに言う 「ってかちり子も男を好きになってたんだな」 「一度ね。好きだって言われて迷惑だったけど、そっから気になって一緒に帰ったりしてた。でも甘いのは嫌いって言った。そしたらさ、彼も嫌いだって。コンビニでおでん買ってカラシ塗りたくって食べたぐらい」 「あま〜〜〜い」 どこがだよ!?って心の中で叫ぶ。 「妹さんは百合子ちゃんね」 少し冷めたチゲ、されど激辛チゲ、舌が異常事態を発令しているのに無視するから怒ってる。 「かわいいよね」 ちり子は男は知らないけど、いじり方は心得ている。 異常事態なんかクソ喰らえと赤い焼き飯を口一杯にかきこむ。 「赤くなってる〜〜」 ななみ 「うぶなんだー。お姉ちゃんに似なくてよかったわー」 幸 「うっさ。ってか何?あんたもう付き合ってんの?手とか繋いでんの?」 お姉ちゃん どうしてこう攻める場合は流暢なんだ。僕は百合子と二人並んで下校する事を想像した。手が触れるか触れないかの距離感。 「めっちゃ赤いんだけど〜」 さっきの涙はどこへいったんだ幸!! 赤い飯の色素が顔にうつった。なんだこれはこれはなんだ。頭がボーッと口の中はカーッとど変態じゃないか。初恋は激辛じゃねーか。新手な心理戦か〜 「胸大きいしね」 ちり子の追い討ち。 僕は詰んだ。金銀に囲まれ、角で牽制され桂馬に踏み潰された。 一度、腕が百合子の胸に触れた感触が蘇る。 僕は手でばつ印を作り降参。 「えええ、話聞きたかった〜」 「残念〜」 「かわいいもんね〜」 「あんたあとでじっくり聞くから」 ラッシーを持ってソファーに寝転がる。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加