あなたのおかず総取り合戦

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幸がハバネロをりんごを食うようにすれば、ななみが七味唐辛子を丸ごと一本チゲにぶッかける。グリーンカレーのルーを赤い焼き飯ブッかるお姉ちゃんあれば、麻婆豆腐にデスソースぶッかけるちり子。 会話はヒーとハーの連発、審判の記録にも正の字がどんどん増えていく。稼ぎの話、保育園の話、激辛で汗だくになっても落ちにくい化粧品の話。終着点なんてない、おそらくしゃべり手の自己満足で点数稼ぎに一生懸命なだけの会話。 ななみは食事は進んでいるが、唐辛子とハバネロに手をつけていない。だが、水分が残り一口ずつ。避けるわけにはいかない唐辛子を一口。 「どえりゃーーー」と叫んだ! 僕は大笑い。だが、三人は真剣な顔で皿と向き合っている。 テレビでみるフードファイトそのままだ。 ななみは残りの水分を立て続けに飲んだが、足りず、席をたちキッチンのシンクへ直行し冷水で舌を冷やす。ここで脱落。 始まったのが、デスソースによるデスマッチ。茶碗一杯分の麻婆豆腐にそれぞれ一滴ずつデスソースを垂らし一口ずつ食べていく。テキサス産は空になり、メキシコ産デスソースもかなり減った。審判が公平にデスソースを入れる。 幸の番、六滴目が足され茶碗を渡される。蓮華一杯を口に運べばいいのだが完全逃避。 幸せだった頃を思い出す。食事以外は幸せそのものだった。 「あーー無理だ」 腹も一杯だったようだ。 デスマッチは一人脱落で終了。残ったおかずは豚キムチとタコワサ。気を効かせた母親が味噌汁を出す。あっつあつの味噌汁にむせるちり子。ほぼすっぴんのちり子はメイクなしの方がいいんじゃないか。豚キムチとタコワサを均等に分ける。二人とも進まない。腹がはちきれんばかり。お姉ちゃんが残りの唐辛子を口に入れて、豚キムとタコワサを勢いで食べる。ラストに力を振り絞った。それを確認したちり子も全てを平らげ試合は判定へ。 ヒーハーの数はお姉ちゃんが多い、会話の流動性はお姉ちゃんに軍配、言葉少なめだったが、チョイスの芸術性はちり子が勝っていた。 「総計して優勝は!!離婚してまもないお姉ちゃん!!やはり、辛さが違う!!辛さなんて離婚とこれからの事を考えて悩む日常に比べればへっちゃらだーーーー」と母親は自慢げにお姉ちゃんの腕を掴んで高々と上げた! 肩を落とすちり子に幸とななみが寄り添う。 「別に知らなくていい辛さよ。あんたは別に男なんかいらなくてもいいんだからね。間違っても勝ちたいからって男に走るなよ」 なんという慰め方だ。異常で、地獄だ。何も残らない勝ち。だが、参戦した僕は四人の闘志に心から拍手をしていた。 食うか食われるか。そうなんかな〜 食欲と性欲は比例するとかいうけど、そうなんかな〜 僕にはまだわかんないことばかりだけど、本当だったら僕はモンスター化決定じゃん。あーー、あたまが。 でも言われると百合子が気になるな。 今度、二人だけで母親の弁当を分け合えたら幸せかも。
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