1人が本棚に入れています
本棚に追加
「おおっと、お兄ちゃん、蓮根挟み揚げからのミニハンバークの連続プレイ、さすがの現役ラガーマン、連携プレーが得意か!!
それを見た、お姉ちゃんクリームコロッケを頬張る!熱い、その表情は熱いのか〜〜、火傷は今後の試合展開をガラリと変えることになるが〜
お父さん、ややペースが落ちてきたように思えたがここで白飯、漬物、スライストマトと油物を避けて最終局面に調整しているようだ。ソーセジを咥えつつも好物のエビフライを狙う僕ちゃん、今日のは特売で買った数量限定のブラックタイガーッ!!狙いたいが〜皿は強敵お兄ちゃんの前、未だ一本も取れず、僕ちゃんのエビフライ伝説は今日で終わるのか〜〜〜」
プロレス好きの母親がエプロン姿でお玉をマイクがわりに実況する。ふざけているようだけど、名実況で皿に集中している僕らに相手がどういう状況か知らせてくれる。そして戦闘意識が煽られるのだ。
「ゲップ!今晩初のゲップはお兄ちゃん、序盤からのハイペース、さらにはお昼にはチームメイトとラーメン屋で替え玉三杯食べてきたのがきいているのでは。おっお父さん、ナポリタンと秋刀魚を皿に乗せた、異色の組み合わせ!大丈夫か?お口の中のアンバランスは集中を切らす要因になると過去の試合で立証済みだが、息子と娘の追い上げにやむを得ない選択なのだろうか。お姉ちゃん、煮付けの大根に苦戦。癖が直らなかった箸使いでうまく裂けない様子、あっとぶっ刺した、ぶっ刺しました〜。僕ちゃんポテサラをマヨネーズたっぷりつけて、、、ああっっと美味しそうだー実に美味しそうだーこれは嬉しい〜〜」
一番人気の鳥唐揚げはすでに空、他の皿のそこも見えてきた。
何をもっての勝敗?そんな野暮なことを聞いてはいけない。
誰が食って生き残れるかだ。あくまで主観。
「お兄ちゃん、シャツを脱いでタンクトップに。ただいまの部屋の温度18度と適温であるが代謝のいいお兄ちゃんには暑すぎるか〜それを横目に僕ちゃんお味噌汁を啜る〜今日はなめこ汁〜熱いから気をつけなければいけない!お父さん、お父さん、ああ、気持ち悪そうだ〜〜明らかに食い合わせ失敗だ、このところの連続二位で今日こそはと意気込んで挑んでいたはず、ああっと〜、残った白米が入った茶碗に味噌汁をかけた、これはまさか、口にかき込んで、静かに目を閉じた〜〜〜〜〜箸を置いた〜〜〜〜手を合わせ”ごちそうさまだ”〜〜優勝候補が脱落〜〜隣のお姉ちゃんにどう影響するか、動きやすくなったが、ライバルの脱落が精神的にどう展開していくのか。マイペースながら着々と食べている僕ちゃん、僕ちゃんがんばれ、下馬評を覆せ!お兄ちゃんが味噌汁を飲む隙に早業のエビフライ二本取り、誰もが油物を避ける局面で好物で勝負できるのは手強いぞ!!いよいよ奇跡の再現になるか〜〜」
お姉ちゃんの箸の動きが鈍る。止まったらカウントが始まる。迷い箸をしながら完全なる戦意喪失はしていないと意思表示しているが、残った品、エビフライ三本、蓮根挟み揚げ五個、角煮と煮卵、白米とナポリタン。宙を彷徨うお姉ちゃんの箸をゾーンに入っているお兄ちゃんの箸が邪魔だと払い除ける。神経戦、イエローカードギリギリのプレー、お姉ちゃんは母親に公平性を訴える。
「悲痛な訴えも審判は無情に首をふる〜」
と母親は実況しながら首を振る。一人二役
「視線は背後の愛子、まだ言葉発せぬ子供だが、きっとお母さんの勇士を目に焼き付けているはずだ!熱い思いがひしひしと背中から伝わるぞ〜がんばれー」
比較的、軽いと思った煮卵に箸が触れた。規則上、触れたおかずは食べ切らないとその時点で失格。
つるり、あっそれ、
つるり、おっそりゃ、
つるり。
「つかめない、お姉ちゃん卵をつかめない。疲弊した指先、明らかにイラついています。我が子がみてます、どうか冷静に〜お箸の持ち方をどーかしっかりと教えてあげて欲しい〜〜。やっと掴んだ〜〜変な持ち方だが器用なのが不気味ーーあああああっと落ちた〜〜テーブルを転がり無情にも床に〜〜お姉ちゃんなすすべなく呆然と茶色に染まった卵を見つめるしかない。失格だ〜〜、拾って洗って食べてください」
お姉ちゃんの脱落をよそにエビフライ争奪戦が勃発中。
他の食材は完全に負けているがエビフライだけは負られない。
お兄ちゃんは怖いくらい集中している。
何を口に入れているのかもわかっていない様子。
さすがは食べるのも練習の人。
「エビフライを巡っての攻防、お兄ちゃんは尻尾を、僕ちゃんは頭の方を掴んだ。隣には別の一本があるのに、意地と意地の張り合い。お兄ちゃんの箸が折れた-------なんという馬鹿力。その隙にエビフライはタルタルにディップされて僕ちゃんのお口へダイブー、ああー幸せそうだー、この子はエビフライが好きなんだーーー。さすがは大食一家の末裔の一人、あなどれない。お兄ちゃん、竹串二本を掴んだ。大きな手にほっそい串は不釣り合い!だが、蓮根の穴に串を通した〜〜凄技だ〜脳筋じゃないぞってことか〜 おっ!?僕ちゃん、エビフライを未だ堪能中、上を向いて咀嚼、そして咀嚼、恵比寿顔で満足しているが、あっと、箸は箸置きに綺麗に並べられているぞ。ってことは、ああ今音を立ててエビフライを飲み込み、手を合わせた〜〜。最後に食べた一本でエビフライ総数は僕ちゃんの勝ちだが、ここで降参だ!!大健闘の準優勝、しかし、なんだあの優勝したかのような幸福感は誇らしい。我が息子、よくやった!!
お兄ちゃん、まだ止まらない〜胃袋は宇宙だ〜やはり強かった〜〜優勝〜〜おめでとう〜〜」
お母さんはマイクにしていたお玉で鍋の底を叩き、試合終了の合図を鳴らした。
最下位に沈んだお父さんが皿を洗い、ブービーのお姉ちゃんがお茶を入れてデザートを用意し、母親を混ぜてあたかも普通の食卓の雰囲気でお互いの近況報告をする団欒となった。
優勝 お兄ちゃん
勝利品目 鳥の唐揚げ、蓮根挟み揚げ、ハンバーグ、スライストマト
準優勝 僕
勝利品目 エビフライ、ポテトサラダ、ソーセージ
ブービー お姉ちゃん
勝利品目 卵焼き、煮つけ、おしんこ
最下位 お父さん
勝利品目 秋刀魚、きんぴらごぼう
大会委員長 お母さんの評価
「大変面白い戦いでした。一番最後に席についた僕ちゃんですが、エビフライを見つけて明らかに気合がみなぎったので、奇跡を期待しましたね。出だしはお父さんが引っ張り、お姉ちゃんが食らいついた。お兄ちゃんをあまり意識しすぎるとペースが崩れますからね。お姉ちゃんはクリコロで口の中を軽く火傷してしまい、調子が狂ったようです。同じく暑さでお兄ちゃんはなめこ汁で苦戦したものの、時間内で自分の波をコントロールし自らをゾーンに入れ込んだのは流石でした。僕ちゃんの大健闘、久々に兄弟の決戦に興奮しました。なにより、時より見せる至福の表情は観るものを惹きつけるエンターテイメント性を感じさせてくれ、勝負以外の何かを感じさせてくれました。みなさんにお疲れ様ですと言いたいですね」
審判委員長 お母さんのコメント
「序盤の箸の攻防はフェアな戦いの醍醐味でした。お姉ちゃんが大根に箸をぶっ刺したのは多めにみました。ゲップは減点材料ですが自然現象で、出すものは出さないと危険。卵が落ちたのは残念でしたね。角煮の煮汁はかなり油が浮いてますからね。表面がすべる卵ではなく、肉片を選べば結果がちがったのかもしれません。しかし、お姉ちゃんも限界まじかだったのでしょう。お兄ちゃんの箸が折れたのはルールブックに載っていないので今回はスルーし、今後の競技発展のルール作りの会議の議題に上がってくるでしょう。竹串二本で箸として使った起点は素晴らしかった。単に発想がよかっただけでなく、大きな手に竹串というアンバランスが生みだす芸術性と器用な捌き方に魅了されましたね。お兄ちゃんのお姉ちゃんへの箸ばらいを問題なしとしたのはお姉ちゃんの明らかな迷い箸が発端だったから、逆にお姉ちゃんに警告が出されていた場面だったかもしれません。総評としては大変クリーンな戦いでした」
料理長 お母さんのコメント
「ほんとよく食うわー。みてて惚れ惚れするわー。明日にはお兄ちゃんは寮に戻るし、お父さんは出張。次戦まで体調を整えておいて欲しいわー」
最初のコメントを投稿しよう!