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真緑の葉
ベッドに並んで座る。
「美沙子」
彼は私を抱き寄せると、一瞬だけためらったが、唇を押し付けてきた。
この三年間、私達は数えきれないほどにキスをしてきた。デートをすれば、そうするのが決まりだったから。
でも、今日の彼はずいぶんと震えている。
そういう私も震えていた。彼の手が胸に触れただけで、私の全身は硬くなってしまった。彼の手の感触を、私の素肌はよく知っているはずなのに。
彼が掛け布団を剥いだ。
その瞬間、私の前で真緑の葉が高く舞いあがった。
「きゃあ」と叫んだ私。
宙に浮かんだのは、真緑の葉だけではなかった。初夏の風は私の体までもふわりと持ち上げるのか。
何が起こったのだろう。
気が付けば、床の上に私は転がっていた。
「おい、美沙子」
彼が私に手を伸ばした。ベッドに引っ張り上げようとする。
「犯される。私は優志に犯される」
恐怖のあまり、私は悲鳴をあげた。
突然に、彼が私から手を離した。
「美沙子。散歩に行こ」
「えっ」
ぼう然とする私。
「この辺、お前は知らんやろ。公園も近いねんで」
彼がそう言うから、私は訳が分からないままに起き上がった。
「俺が案内したるわ」
私はこくりと頷いた。
玄関で紺色の運動靴を履く。
彼の視線を背中に感じながら私は考えた。
彼はどうして、いきなり散歩しようと言い出したのだろう。アパートの外はもう暗くなっているのに。
私があまりに怖がったから、彼は怒ったのだろうか。その直前になって怖がる女など、抱きたくないと彼は思ったのでは。私は彼の期待を裏切り、がっかりさせたに違いない。
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