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願う
毎日毎日神様に願った。
ーーゆっくりした時間が欲しい……もう少しだけゆっくりした生活がしたい……
普段あまり神様とか信じるほうではない。それほど一華は追い込まれていた。
毎日仕事が忙しく夜もオンコールで呼ばれる。
休みとかほぼない。ブラック企業だと思う。医者という職業。
生命を助ける事ができる仕事で、やりがいもあり好きでやっているのだが、一生懸命走り過ぎてもう34才になっていた。
「何で私彼氏いないんだろう……リア充していない……?」
考えれば考えるほど恐ろしい。
医者の友達は一緒に働いていたはずなのに、いつの間にか、ちゃんと結婚もしているし彼氏もいる。私だけ、彼氏以前に好きな人もいない……。
何となく仕事のせいだけではないことくらいは、気が付いていた……。
**
その日は、久々の休みで、1人で観光の穴場を見つけ、パワースポットでもある山頂に紅葉を見に来ていた。
「すごく綺麗。いろんな色がある」
秋の風が気持ちよく、一面が銀杏や落葉樹の葉で彩る。黄色や茶、赤の葉でできた絨毯の上をザクザク音を立てながら歩いた。
「凄〜い!!」
一華は、軽快に落ち葉を踏む音が心地よく、雑誌の中にでもいるような、不思議な感覚に異世界感を満足していた。
そして、好奇心が強い一華は気づかないうちにどんどん山奥に入っていく。
いつのまにか眼の前には、古い紅い鳥居が一つ立っていた。
その奥には手入れされていない、古びたお堂の中にお地蔵様がいらっしゃる。
一華はお参りしようと鳥居を潜った。
お地蔵様の前まで行くと膝をつき目を閉じ手を合わせる。
そして、お地蔵様にいつものお願いをした。
ーー少しだけ、ゆっくりした時間が欲しいです。ゆっくりした生活がしてみたい。お願いします。
「願い叶えられたし」
耳にそう聞こえた気がする……。
はっと目を開けると、何だか先程と違和感を感じ、振り返る。
先程とは違い自分の後ろには紅い鳥居がずらーっと列をなして並んでいた。
紅い鳥居は、目視だけでも、80個は並んでいるようだ。
「え……?ここどこ……?」
一華は驚き声が大きくなり、口に手を当てる。
もう一度改めて辺りを見渡す。
先程とは明らかに違う木々の葉の色は、濃い緑色を呈し、熱い太陽の光が差しこめる。
ーーえ?季節が違う……よね?
一華は山の頂上にいるらしく、1人でどうすることもできない。
孤独感が恐怖を増長させる。
誰でもいいから人に会いたくて、ゆっくり100個の紅い鳥居を恐々くぐる。
山の麓まで降りていく事にした。
一華は山を降りていくと、女の人に出会った。
そこで、この場所の話しを聞いて衝撃が走る。
「ここは獣人の国だよ」
私は違世界に来てしまっていた。
これは夢でもなく現実に起きている。
この世界は、獣人の世界だった……。
ーー神様は私にスローライフの世界を与えた。
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