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溢れる
一華はキョウに抱きしめられたまま眠っていた。
目が覚めた一華はキョウの寝顔を見つめる。
始めからキョウを好きにならないように避けていた。人を信じられない一華は、キョウは人を本気で好きにならない人だと感じたからだ。
気怠い身体をゆっくり動かし、キョウの腕から抜け出し外に出た。
キョウは疲れているようで一華が抜け出したのに気がついていない。規則的に聞こえる寝息が何だか可愛くて一華はそっとキョウの頬にキスをした。
静かに着替えてキョウの部屋からを出た。
昨夜キョウと一線を超えてしまった。
傷つきたくなくて、キョウだけは好きになりたくなかった。
でもいつも辛い時には、すぐに見つけてくれて、いつも側にいてくれたのはキョウだけだ。
抱かれている途中、奥底に閉じ込めていたキョウへの気持ちは溢れ出てしまった。
自分が思っている以上に好きが積もっていた。
キョウへの気持ちを自覚すると、一華は顔を赤らめ恥ずかしくもあり嬉しくもあり顔が緩む。
ーーキョウに恋をした。だがキョウの中で私は特別じゃないかもしれない。でも私のこの恋心を無くすことはもう出来ない。
家に帰る途中、朝日が登り始め光が海に反射しキラキラ輝いていた。いつも以上に一華の目には輝いて見えていた。
次の日、あの夜から始めてキョウと顔を合わせた。
どんな顔をしていいのかわからないけど、キョウと話がしたいそんな気持ちで出勤した。
だが、キョウはいつもどうりだった。
「一華おはよう。今日はお客の予約が結構入っているから、畑から野菜をもぎってきといてね」
「あ……おはよう……。わかった……」
あの夜の事にはキョウは触れなかった。
逆に一華は時間が経つ度に何だかどんどん不安になっていく。
ーーあの事を意識しているのは私だけ?やはり、流れで抱いただけ?キョウの特別にはなれなかったのかもしれない……。
一華は悶々とした表情で仕事をする。
キョウは、一華の晴れない表情を見て途中で話しかけた。
「一華……具合悪い?顔色悪いみたいだけど……」
一華は首を横に振る。
「ちょっと落ち着いたら早めに帰らせてもらおうかな……」
「具合やっぱり悪いなら、俺の部屋で休んでおく?」
一華はキョウの優しい言葉が辛くなった。
「大丈夫だから……」
一華はキョウの顔を見ることもせず、淡々と仕事をこなす。いつもの明るい感じと違う一華は少し店が落ちつくと早退した。
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