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帰りながら一華の目には涙が溢れた。
一度溢れると次から次にこぼれおちる。
何度も目を擦りながら歩いていく。
一華は、キョウが昨日の事に触れない事への涙ではなく、キョウの特別になれているかもと勝手に、期待し、怒って悲しんでいる自分が嫌だった。
ーー頭を冷やそう。キョウはもう自分のモノみたいに感じてしまっていた。確かに付き合う約束をしたわけではない。キスをしてみようと言われ、そのまま流れてしまった感じだ。でももう、私の好きが溢れすぎている。冷静になろう。
頭を整理しながらゆっくり歩いた。
ーー結局、ここの世界にきて気が付かないうちに恋をしていた。もう諦める事なんてできない。これから、キョウをもっと知り、キョウの特別になれるように頑張ればいいのだから。
自分にそう言い聞かせると少し楽になってきた。
久しぶりに、あのお地蔵様にお礼をいいに行きたくなった。恋愛ができた報告に……。
次の日バイトに行く前に、一華はあのお地蔵様のある山頂までやってきた。
一華がここに来た時とは違う季節が訪れていた。山の葉は赤や黄色の色を呈している。風も太陽の光がさしてないと肌寒い。
「ここも秋になってきたな……。紅葉を観にいっていた人間界の時と同じ季節だ」
この獣人の世界に来て、2ヶ月程経過していた。
お地蔵様の前で両膝をつき、目を閉じ手を合わせる。
ーーここに来て恋ができました。まだまだ私の片想いで苦しいけど……今から頑張ります。恋をさせてもらってありがとうございました。
するとまた一華の耳にどこかで聞いた声がした。
「願い叶えられたし」
ーーこの声は……
「あっ……駄目!」
思わず息を飲む一華の声が漏れ、叫んだ。
そしておそるおそる目を開けた。
一華の予想どうり、人間界にもどってきていた。休暇に来たパワースポットは日が暮れ暗くなっていたが、あの日1人で山に紅葉を見に来たあのままの景色だった。
一華は呆然とし膝をついたままお地蔵様の前から動けなかった。
「何で……何で……せっかく恋ができたのに……」
お地蔵様の顔を見て問いかけるが、お地蔵様からの返事はない。もう獣人界に行けないということは、キョウにも会えない……。
どれくらいこの場から動けなかったんだろうか?
一華はどこにもこの想いをぶつけることもできず放心状態で、ゆっくり膝をあげ自分の車に戻っていく。
車の上には、車を隠すかのように落ち葉が積もっていた。一華は無表情で、手で落ち葉を払い落とす。
時計を見ると、ここに来てから2時間程しか経過していなかった。
一瞬キョウに出会えたことは夢かも知れないと感じたが、今の自分の服装がここに来た時のモノとは違う。
やはりキョウに恋した自分が存在していた事を知り安堵したと同時に無力な自分は、どうする事もできない。泣きたくなる気持ちを抑え家に帰っていった。
山から帰る途中、鳥の鳴き声や動物の鳴き声が鳴いているのが耳に残った。
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