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 濱野(はまの)(りつ)が目を覚ますと、そこは自宅の玄関だった。昨日着ていた服、ショルダーバッグもぶら下げたまま倒れ込んで寝てしまっていた。  起きあがろうとすると頭がガンガン響き、呻き声を上げながら頭を抱えて座り込んだ。  昨日は残業しないで職場を出てから、地元の仲間たちとの飲み会に参加した。いつものようにお喋りに花を咲かせていたが、一人のメンバーが結婚の報告をしたためつい浮かれて飲み過ぎてしまった。  床を這いつくばるように部屋の奥へと進み、なんとかベッドまで辿り着く。眠くはないが、自由に身動きがとれるような平衡感覚はない。 「今日が休みで良かった……」  思わず口から出てしまうくらい、今の律の気分はどん底だった。っていうか、よく家まで帰ってこられたな。  カーテンを閉め忘れた窓からは、レースのカーテン越しに朝日が燦々と降り注ぐ。その暖かい光を見ながら、ふと先ほどまで見ていた夢のことを思い出した。  なんてリアルな夢だったんだろう……膝枕に頭を撫で撫でしてキス……俺ってばどんだけ欲求不満なんだよ。あぁ、マジで彼女が欲しい……。  っていうか、すごくいい感じの子だったなぁ。見た目がどうこうじゃなくて、話し方とか雰囲気とか、ちょっとドキドキしたもん……そこまで考えて律はハッとする。  いや、待てよ。夢に出るってことは、もしかしたら正夢になる可能性だってあるよな。よくそういう不思議な話をする人を見るし、現に職場にもそういう不思議ちゃんがいたりする。今後夢と同じようなシチュエーションがやってくることだってあるかもしれないじゃないか。そうなればきっとあの子は俺の運命の子に違いない!  その時だった。律のスマホが鳴り、ゆっくりとした動作でポケットから取り出す。すると昨日結婚を発表した友人の時任(ときとう)からのメッセージが届いていた。 『ぶっ倒れてたお前を家まで送ったの俺だから。感謝しろよ』  なるほど。やっぱり一人じゃ帰れなかったんだな。スマホの画面に向かって拝むと、再びメッセージが届く。 『飲み代とタクシー代、今度徴収するから』 『了解。俺いつからぶっ倒れてた? 記憶ないんだけど』 『よくわからん。トイレ近くの小上がりで寝てたのを店員が教えてくれた』  その文面を見て、律の心にある疑惑が生まれる。やっぱりは夢じゃなくて現実なんじゃないか?  それからスマホのカメラ機能で自撮りをした律は、写真に写った自分の姿を見て目を輝かせた。なんと頬が赤く腫れていたのだ。そしてすぐに時任にメッセージを打つ。 『昨日の店って女性客も結構いた?』 『まぁいたかな。同じ中学の後輩も同窓会やってたみたいだし』  これではっきりとした。その中に俺を介抱してくれた優しい女子がいたはずだ! だってずっと俺のことを"先輩"って呼んでたじゃないか! 律の中で疑惑が確信に変わった瞬間だった。
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