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高校の時、クイズ研究会の律と吹奏楽部の翠の下校時刻が重なる日が時々あった。すると彼女はいつも律にこう言った。
『夜道は危ないから、家まで送ってください』
何故俺が……と不満を感じながらも、どうせ通り道だと翠を家まで送っていた。
歩いている間の会話は律のクイズに関するうんちく話ばかりで、翠はそれをただ聞いて時間が過ぎていく。
『本当に先輩ってクイズバカなんですね』
『クイズ以上に夢中になれるものがないだけ』
『……好きな人とかいないんですか?』
『いないけど、彼女は欲しいと思う! 誰でもいいから彼女になってくれないかなぁ』
『……呆れた。気持ちがないのに彼女が欲しいだなんて……。そんなんじゃいつまで経っても彼女なんて出来ませんよ』
そう言った彼女はいつも苦笑いをしていたな……そんなことを思いながら、自転車を走らせ見慣れた街並みを進んでいく。
なんだかんだ彼女に歩幅を合わせて歩いたっけ。彼女がこっそり持ち歩いていたのど飴を舐めながら、歩いた時間が懐かしい。なんか青春の思い出って感じがする。
二人で歩いた道路から翠の家がある脇道へ入った時だった。少し先に犬の散歩をしている女性がいることに気付く。グレーのTシャツにジャンパースカート、長い髪を一つにまとめた後ろ姿を横目でチラッと見ながら素通りしようとした律は、その顔を見た瞬間に急ブレーキをかけた。
突然の出来事に驚いた女性は体を震わせる。犬は警戒心を露わにして律に何度も吠えたため、律もバランスを崩して倒れそうになった。
「だ、大丈夫ですか⁈」
しかし律の顔を見た女性は、顔を真っ赤にして両手で口元を覆った。
「先輩⁈」
「あぁ、やっぱり相沢だった。久しぶり。それにしても昔と雰囲気が違うから人違いかと思って焦ったよ」
「そりゃ休みの日だから……。というか、久しぶりに会って第一声がそれですか? 先輩こそどうしてこんな所にいるんですか?」
「うん、ちょっと相沢に聞きたいことがあってさ。まだ実家にいるかなぁって来てみたんだ」
すると翠は唇をキュッと結んで俯くと、体が強張るのが見てとれた。今までに見たことのない反応に律は少し戸惑う。
「……まだ実家にいますけど……聞きたいことって何ですか?」
ぶっきらぼうな態度に怯みそうになるが、自分の方が先輩なんだと言い聞かせて気合いを入れ直す。
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