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「わかった」
私が動けるようになると彼はコートを翻し瑠衣の部屋に駆け込んだ。私はドアにすがるように立ち、中を見守っていた。彼は眠りこむ男の様子を見てからクローゼットのほうへ消えた。横になった男は丸太のように足をこちらへ向け、ぴくりとも動かない。程なくして瑠衣は彼に抱えられ出てきた。
「瑠衣……!」
ぐったりとした瑠衣は私を見て微笑んだ。
「よかった、無事で」
私は瑠衣の熱い体を抱きしめた。
「瑠衣がいなきゃ、生きていけない」
腕の中で瑠衣は力なく笑った。私の言葉は瑠衣に本当の意味では届かない。
「警察に連絡した。救急車も来る」
扉の前に立ちはだかった彼が電話から耳を離し、私たちに告げた。
私は彼に向かって頷き、巻いていた赤いマフラーで瑠衣を大切に包んだ。
瑠衣は部屋を引き払い、実家へ帰っていった。
私は代わりに月に一度会う相手を見つけた。
ある週末、うまい飯に連れていってやる、と言われ入ったレストランは、確かに美味だった。
「紅香、寄り道するなよ」
「しないよ」
「お前ふらふらしてるからな」
彼はにやりと笑い、私の頬をつまむ。
瑠衣の元隣人はスーツを着込むとなかなかいい男だった。あれからなにかと理由をつけては彼から連絡が来て、私たちは親しくなった。
彼は別れ際、彼はじゃあなと言って私の手を握り、私たちはキスを交わす。
寄り道しちゃだめよ。
頭の中で誰かがささやく。
寄り道は終わった。
私は瑠衣が好きだった。
気持ちは解放されないまま、可愛らしい小箱に鍵をかけ、そっとしまってある。
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