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瑠衣は先月引っ越した。
遊びに行くよ、なんなら新居の片付けも手伝うと話しても、大丈夫、来るのはもう少し待って欲しいと言われ続け、ようやく呼んでくれたのだった。
瑠衣の家には以前からよく泊まりに来ていた。だいたい月に一度のペースで、予定がつかなければ一ヶ月や二ヶ月空いたりもする。金曜の夜に集まって土曜に解散するのが普通。開催場所が瑠衣の家なのは、わが家より綺麗で居心地がいいからだ。
瑠衣は極端に寂しがりで、ひとり暮らしを始める部屋をわざわざ私の近所に決めた。頻繁に遊びに行くようになり、週三回だったのが週一になり、月に一回になり、今のペースに落ち着いた。
そんな瑠衣が落ち着いた町に住みたいと引っ越してしまった。
高校から始まった付き合いはもう十年になった。
後ろを見るとさっきアパートで会った男がついてきていた。駅への道だし単に同じ方向だという可能性もあるけれど、なんとなく気持ちが悪い。私はわざわざ角を曲がり、男も同じくこちらへ曲がってきた。まさか自分が不審者で、こっちを安心させようとしただけだとか、などと妙な妄想に至ったときに、彼はコンビニに消えていった。
ほっとして残りの道のりをひたすら歩き、ようやく駅に着いた。
十二月に入り、街はクリスマスのディスプレイで華やいでいた。
寄り道しちゃだめよ。
店から流れる音にまぎれ、幼い頃母に言われた言葉がよみがえる。ここのところその声が頻繁に頭に浮んでいた。そんなことわかっている。
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