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最寄駅から電車に乗った。しばらく揺られたあと別の線に乗り換える。そこでようやく息をついた。もうすぐ着くという安堵が湧く。
それにしてもやっぱり遠い。以前が近すぎたのだ。瑠衣はどうしてこんなに遠くに行ってしまったのだろう。考えても結論の出ないことを考え、シートの柔らかい表面を撫でた。
列車の揺れに身をまかせ、少しずつ領域を広くする空を見上げた。
寂しいなあ。
瑠衣といるうちに彼女の寂しさがこちらへ移ってしまった。それは、ちょっと困る。困るなあ、と呟き、私は目を閉じた。
話し声もない。走行音がするだけだ。暖房は心地よく、ゆりかごに揺られている気分になる。
降車駅のアナウンスが聞こえ、目を開けた。涙を流していないのに、泣いた後のようだった。
ドアが開き、ちらほらと降りる人の後についた。確かに私の住む街よりも、少しだけゆっくりと時間が流れている。
午後三時はもう夕暮れの気配がしはじめていた。瑠衣は今日食事を取っていないかもしれない。改札を出て、まだよく把握していない駅前をさまよいスーパーの看板を探した。
寄り道しないでね。
また母親の言葉が頭を過ぎる。わかってる。今は瑠衣が待っているんだし、寄り道なんてするわけがない。
「どうかしました?」
突然呼び止められ、振り返った。私より少しだけ背丈のある、痩せ型の男が私の真後ろに立っていた。
「どこかお探しですか」
普通の表情に見えたが、背筋がぞくりとした。
「……スーパーを探していて」
「ああ。この辺、あまり来られないんですね」
「あの……」
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