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私が言い澱んでいると、彼は優しく微笑んだ。
「驚かせたかな。すみません。困ってらっしゃるように見えたんで。スーパーは駅の反対側ですけど、十分ぐらいのところに大型店もありますよ」
そう言って彼は近くに立てられた地図へ私を連れて行った。
「ここです」
彼が指した場所は駅よりも瑠衣の家に近かった。
「ありがとうございます。助かりました」
「お気をつけて。あ、このスーパー、美味しいアイスクリーム専門店が入ってるんですよ」
「え、本当ですか」
「種類が多いから迷っちゃうかもしれませんね。ゆっくり決めるといいですよ」
「そうですね」
一応相槌を打ったが、私が病人を待たせていると彼にわかるはずもない。
礼を言い、別れた。ただの親切な人じゃないか。無用にささくれだった警戒心を解き、私は歩き出そうとした。ふいに背中のあたりにある髪先を誰かが持ち上げたような気がした。
咄嗟に振り返っても背後には遠ざかっていくさっきの男と、私の急な行動に驚いている数人の通行人がいるだけだ。
私は長い髪を束ねるようになでつけ、足早にその場を離れた。
教えられた場所を歩き回ったが、スーパーは見つからなかった。
だいぶ時間を使ってしまった。熱で苦しんでいる瑠衣が心配だ。仕方がない、近くにコンビニがあればそこで手打ちにするしかない。
ちょうど青になった信号を渡った。見覚えのある男が向こうから来る。相手が会釈をし、瑠衣の隣人の男だと気がついた。彼ならこの辺りのことも知っているだろう。初対面の出来事を思い出し嫌な気持ちになったが、瑠衣のために忘れることにした。
「すみません、この辺に大きいスーパーってありません?」
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