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「スーパー?」
彼はちょっと考え、急に私の手を引いた。驚いたが、横断歩道のど真ん中から私を歩道へ誘導しただけだった。
「場所違うよ」
「えっ」
「ここ、アパートより駅側だろう。スーパーはもっと先」
「どっちですか」
「この道まっすぐ行くと大きい道路があるから、そこを右行ってすぐ。あと十分は歩くかな」
「十分?」
「ついていってやろうか」
男は馬鹿にしたようににやりと笑った。
「結構です」
私は形ばかりの礼を言って背を向けた。まさかあの男、嘘を言ってはいないだろうなと考えたが、とにかく行ってみるしかない。
相変わらず男は苦手だ。駅前であった雰囲気の人であれば苦なく対応できるが、瑠衣の隣人みたいなタイプは駄目だ。私にも一応、世間に馴染もうという意思はあるため普段は浮上することはない考えだが、本当は世の中に男は不要だとすら思っている。
時刻はもう四時近い。夕暮れが押し寄せ、街は色を淡くしていた。慣れない場所だから道に迷ったら厄介だ。日暮れ前に買い物を終わらせたい。
ふと、コンビニでもいいんじゃないかと迷った。いや、できれば明日まで持つぐらいは買っておきたい。急げばそんなに時間はかからないだろう。
教えられた方向へ向かい、教えられたほどはかからずに大型スーパーの看板が見えはじめたときに、私は彼への素っ気ない態度を反省した。
大急ぎで店内を回る。駅前の男に聞いたアイスクリーム専門店もあった。やはり私が場所を勘違いしたのだ。瑠衣の好きなクッキークリームとストロベリー、自分のためにチョコミントを買った。これで瑠衣のリクエストにも応えられた。
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