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荷物を下げて来た道を引き返す。首筋がしっとりと汗ばみ、マフラーを緩めた。途中からは知っている道で、なんとか迷わずにアパートに辿り着いた。
ここはオートロックがない。階段を上がり瑠衣の部屋の前に立つ。なんとなく違和感を感じた。本当にこんな雰囲気だっただろうか。外観は記憶の通りだったし、扉のデザインや濃いブラウンにも覚えがある。表札はないから中に入らなければ確かめようがない。
瑠衣は鍵を開けておくから勝手に入って欲しいと言っていた。私はそっと扉を引いた。廊下の向こうに白い家具と淡いピンクのクッションが見え、安心した。間違いなく瑠衣の部屋だ。
「瑠衣」
私は奥へ声をかけ短い廊下を進んだ。
ベッドに誰か眠っている。
「瑠衣?」
私は部屋の隅に荷物を置き、そっと声をかけた。動かない。眠っているのだろうか。
そのときクローゼットからがたりと音がした。前に不自然に小高く荷物が積み上がっている。瑠衣は綺麗好きなのに。私は荷物を押しのけ、クローゼットに手をかけた。
突然背後からマフラーを引っ張られた。咄嗟に指をかけたが間に合わず、あごに食い込み息が詰まった。
「待ってたよ」
ねっとりとした声が耳元でささやき、生温い息がかかった。
「ゆっくり買い物できたんだね」
マフラーを絞り上げられる。声に聞き覚えがあった。
頭が白くなりかけたときに男の手が緩んだ。床に放り出された私は膝をつき大きく咳き込む。
「大丈夫?」
大丈夫なわけがない。息が整う前に体にロープが巻かれた。
「ちょっと痛いけど我慢してね」
振り仰いだ顔はやはり、駅前で私にスーパーの場所を教えた男のものだった。抵抗しようと試みたが、ひょろりとしているくせに一人前に力はある。
「瑠衣は」
「そこで眠ってる」
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