長い寄り道

8/12
前へ
/12ページ
次へ
 荷物を下げて来た道を引き返す。首筋がしっとりと汗ばみ、マフラーを緩めた。途中からは知っている道で、なんとか迷わずにアパートに辿り着いた。  ここはオートロックがない。階段を上がり瑠衣の部屋の前に立つ。なんとなく違和感を感じた。本当にこんな雰囲気だっただろうか。外観は記憶の通りだったし、扉のデザインや濃いブラウンにも覚えがある。表札はないから中に入らなければ確かめようがない。  瑠衣は鍵を開けておくから勝手に入って欲しいと言っていた。私はそっと扉を引いた。廊下の向こうに白い家具と淡いピンクのクッションが見え、安心した。間違いなく瑠衣の部屋だ。 「瑠衣」  私は奥へ声をかけ短い廊下を進んだ。  ベッドに誰か眠っている。 「瑠衣?」  私は部屋の隅に荷物を置き、そっと声をかけた。動かない。眠っているのだろうか。  そのときクローゼットからがたりと音がした。前に不自然に小高く荷物が積み上がっている。瑠衣は綺麗好きなのに。私は荷物を押しのけ、クローゼットに手をかけた。  突然背後からマフラーを引っ張られた。咄嗟に指をかけたが間に合わず、あごに食い込み息が詰まった。 「待ってたよ」  ねっとりとした声が耳元でささやき、生温い息がかかった。 「ゆっくり買い物できたんだね」  マフラーを絞り上げられる。声に聞き覚えがあった。  頭が白くなりかけたときに男の手が緩んだ。床に放り出された私は膝をつき大きく咳き込む。 「大丈夫?」  大丈夫なわけがない。息が整う前に体にロープが巻かれた。 「ちょっと痛いけど我慢してね」  振り仰いだ顔はやはり、駅前で私にスーパーの場所を教えた男のものだった。抵抗しようと試みたが、ひょろりとしているくせに一人前に力はある。 「瑠衣は」 「そこで眠ってる」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加