22人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ紅、柿の種ってなんで柿の種っていうんだろうね?」
コートに袖を通しているときに瑠衣がカーペットに落ちていた柿の種を拾いながら言う。私は思わず低く唸り瑠衣の顔を見た。
「……知らん」
瑠衣が甘えた舌ったらずな言い方で私の紅香という名前を紅と呼ぶとき、ベニーに聞こえなくもない。私は嫌いではない。
「本物の柿の種って丸いよね」
瑠衣は思いつきで言っているだけなので、特に答えは求めていない。私も種子状のあられが他に落ちていないかざっと確認した。昨夜酔っ払って皿をひっくり返したのは私だ。見たところ柿の種はなかった。
「掃除するから大丈夫だよ」
「うん。ありがと」
南向き単身向けの部屋はリフォームしたばかりで、午前中の明るい光がさんさんと差し込んでいた。パステルカラーで整えられた部屋はいかにも女の子らしく、私には無縁の色合いだ。ずいぶん遅くまで話していて、もう無理というところで眠ったので、少し目の奥が重い。
「寒いからこれ持っていきなよ」
玄関で座ってブーツを履いていた私の首に、瑠衣がクローゼットから出した赤いマフラーをかけた。自分のマフラーは瑠衣のうちにくる途中電車でうたた寝をして、慌てて降りたときに忘れたらしかった。
「あげる。もう使ってないから」
「そう?」
「似合うよ」
瑠衣は柔らかくにっこりと笑った。光の細かな粒子が彼女に降る幻が見えそうだ。栗色の髪が柔らかそうな白い肌に合って、わずかに首を傾げると肩にふわりとかかった。
ありがたくマフラーをもらい、代わりに以前瑠衣が欲しがっていたセーターをあげる約束をした。高校生の頃から変わらないやりとりだ。
「本当に送っていかなくても大丈夫?」
最初のコメントを投稿しよう!